【レビュー】本谷有希子『異類婚姻譚』を読んだ感想

【レビュー】本谷有希子『異類婚姻譚』を読んだ感想


本谷有希子さんの『異類婚姻譚』を読みました。

収録されていたどの作品も、夢と現実が溶け合っていくような、とても不思議なお話でした。




感想・レビュー

血のつながりのない赤の他人と生活を共にする「結婚」は、よく考えると異様な行為だ。長い間同じ屋根の下で暮らしていれば、互いに影響を及ぼしあい、心身ともに変わっていかざるを得ない。表題作の『異類婚姻譚』では、その変容が現実とファンタジーの狭間で描かれていた。序盤は境界線上をふらふらと歩いていたのに、最後はダッシュでファンタジー側へ走り出していくような展開で、やっと追いついたと思ったら話が終わっていた。

個人的には意識的に自分そのものを変えるために結婚する人は少ないと思うけれど、逆に離婚の理由としては、変わっていく自分が怖くなったから、というのはありそう。よくパートナーを選んだ理由として挙げられる、ありのままの自分でいられるから、というのは、実際には、その相手になら自分の「ありのまま」を侵食されてもいいから、ということなのかもしれない。僕は未婚でこれからも結婚の予定はないが、表面上だけ相手の都合に合わせて演じるのではなく、根本的に自分自身を変えていく柔軟さがないと、夫婦としては続かないのだろうと思う。

3話目の『<犬たち>』はタイトルの<>が意味深だなと思っていたら、それ相応の結末になった。軽やかな筆致で怖いことをされると、どうリアクションすべきかわからず困る。目に見えないはずの犬たちは、触りたくなるほどふわふわでかわいかった。

4話目の『藁の夫』は表題作よりストレートな意味での異類婚姻譚。設定の奇抜さに反し、揉め事の内容はめちゃくちゃ人間らしい。車に対する夫婦間での意識のずれは一般家庭でも喧嘩の種になっていそうで、物語全体が妻から夫に対する辛辣な比喩のようにも感じられた。その気になればいつでも燃やせるんだよ、って。怖いね。


さいごに

表題作で出てきた猫の粗相の話はとても印象的でした。

「異類」と一緒に暮らすのは大変……。

猫を飼っている人も、結婚している人も、人間レベルが自分よりはるかに上な気がして尊敬してしまいます。


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