【感想】『木洩れ日に泳ぐ魚』


題名:木洩れ日に泳ぐ魚
著者:恩田陸


内容・あらすじ


とある晩、引っ越し前の部屋で最後の別れの前に待ち合わせた一組の男女、ヒロとアキ。
2人は1年前の旅行でのある男の死について語り始める。
会話が進むにつれ、男の死の真相、2人の過去に隠された秘密が明らかになっていく。


感想・レビュー

次々と現れる謎と真実


物語の始まりには、主役の2人が一体何者なのかもわからず、いったいこれから何が起こるのかとドキドキしました。

2人の会話が進み、一つ事実が明らかになったかと思うと、また新たな謎が出てきて、続きが気になってなかなか本を閉じることができませんでした。

普通のミステリー小説では、物語の最後にそれまでの伏線が回収されて謎が解決されます。
物語がクライマックスを迎えるまでに読み飽きてしまうこともしばしばです。

それに対してこの小説では、謎の提示と解決が絶えず繰り返されながら話が進むので、最初から最後までわくわく感が続きます。

このような手法だと、作者はいくつも謎を用意しなければならならず、うまく話を構成するのは大変だと思います。

それを違和感なくやってしまう恩田さんはさすがです。


障害が大きいほど恋は盛り上がる?


この話では姉弟間の恋が描かれています。

当然、姉弟での恋愛は許されないもので、主人公たちは激しく葛藤します。

僕は恋愛経験に乏しいのでよくわかりませんが、障害の大きい恋ほど燃えるものなのでしょうか。

もしそうならば、親の反対や身分違いの恋に比べて、絶対に許されない姉弟間の恋というのは別格なはずです。

そんな恋愛を経験してしまったら、それからは好きな人ができても、物足りなさを感じてしまいそうです。

盛り上がるけど許されなかったり、上手くいきすぎると冷めてしまったり、恋愛って難しいですね。


印象に残った一文


物語の本筋とはあまり関係のない部分ですが、次の一文がとても気に入りました。

私の死が一つの結末なら、この春雨サラダは無数の泡の一つに過ぎないのだ。
『木洩れ日に泳ぐ魚』、26ページ

これは、アキが、自分が死んでしまっても世界は変わらず続いていく虚しさを表したものです。
何でもないものの代表として「春雨サラダ」が挙げられているのが絶妙です。

春雨サラダを無数の泡の一つと表現する作家は、恩田さんの他にいないと思います。

これからは春雨サラダを食べるたびにこの小説を思い出してしまいそうです。