岡崎琢磨さんの『珈琲店タレーランの事件簿6 コーヒーカップいっぱいの愛』を読みました。
個人的には「タレーラン」シリーズの今までの話の中で一番好きです。
夢中でストーリーを追っていたので、読み終わってしまったのが寂しい……
あらすじ・概要
タレーランのオーナー・藻川又次は、狭心症の発作で倒れ緊急入院。「手術を受けてくれるなら何でもする」と言った美星にある頼みごとをする。
それは、4年前に亡くなった妻が、生前激昂して1週間消息を絶った謎を解明すること。
美星は常連客のアオヤマとともに手掛かりを求め、浜松、そして天橋立へと旅に出る。
感想・レビュー
謎解きの過程が楽しい
「タレーラン」シリーズの魅力といえば、バリスタ・切間美星の冴えわたる推理!……なのですが、今までのシリーズでは謎解きが始まるまでの隠し事が多く、読者としては置いてきぼり感がありました。
しかし、今作では旅の途中で一つ一つ手掛かりが明かされていき、自分も登場人物と一緒に真相に近づいている気分が味わえます。
話のテイストは『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズに近く、最後の答え待ちではなく、読んでいる間ずっとワクワクする展開。
驚きよりも心地よさが胸に残る、僕の好きなタイプのミステリーでした。
ちなみに、今回はコーヒーの豆知識は全然出てきません。
そこを楽しみに「タレーラン」を読んでいる人にとっては、少しがっかりかもしれないですね。
※以下ネタバレを含みます
お嬢ちゃんがいい味出してる
旅の途中たくさんの謎が描かれる中で、うまい役割を果たしていたのが、小原になりすました女子高生。このお嬢ちゃんが実にいい味出してました。
僕は彼女が登場してすぐに「この子は小原本人じゃないな」と気づきましたが、おそらくそれは作者の狙い通り。
序盤で一部の謎を解かせることで、「正体は誰?」と読者を物語に引き込む作戦だったのだと思います。
結局、この女子高生は今まで物語に出てきていない人物で、いくら推理してもたどり着くのは不可能。
本人が白状するまで絶対に正体がばれない、いわば究極の「安全パイ」なので、読者が小原と別人だと勘づいても全く問題ないわけです。
なんと見事なやり口……
ミステリーにはこういう読ませ方もあるのだなあ、と作者の手腕に感服しました。
突っ込みたいのは1か所だけ
タレーランシリーズでは、美星の推理に対してアオヤマが疑問を投げかけ、それを美星が理路整然とフォローする場面がよくあります。今回はその描写が多く、推理の穴が徹底的に埋められている印象でした。
作者が編集者と細かく原稿をチェックし、繰り返し推敲を重ねている姿が目に浮かびますね。
しかし、どうしても突っ込みたいところが1点だけ。
それは……主人公の美星が危ない目に合いすぎ!
美星は以前の巻でも誰かに襲われていた気がします。
もちろん、登場人物がピンチに陥るのは小説なら仕方ないとはいえ、頭を殴打されるのはちょっと……
あくまで僕の気持ちの問題ですが、やはり女性の身体が傷つくのは読んでいて痛々しいです。
とくにシリーズ物の主人公は大切に扱ってほしいなあ……
さいごに
今回は美星とアオヤマの関係に大きな進展がありました。次の7巻でどうなるのか楽しみです。