【短歌日記】上と下あちらとこちら手を取って世界の歪み整え隠す

上と下あちらとこちら手を取って
世界の歪み整え隠す


近藤滋さんの『エッシャー完全解読――なぜ不可能が可能に見えるのか』を読んだ。そもそもだまし絵は単純に錯視図形を応用した作品のことだと思っていたので、錯視図形を錯視図形に見せないことこそがだまし絵の肝だという考え自体が新鮮だった。

確かにエッシャーのだまし絵は、現実には絶対にありえない構造物が、ばっと見では違和感を覚えないほど自然に描かれているのがすごい。著者の検証の過程を辿りながらじっくり絵を眺めて、改めてエッシャーの技巧のすさまじさに感嘆した。(というか、絵の専門家でもないのにこんな本が書けてしまう著者もとんでもない切れ者)

エッシャーといえば、昔ハウステンボスにあった(今もあるかもしれない)アトラクションを思い出す。3Dメガネをかけてエッシャーのだまし絵を使った映像作品を見る、というものなのだが、無駄にゾクッとさせる演出がなされていて、途中でメガネを外しながら恐る恐るスクリーンを眺めていた。たぶん今見たら大して怖くないのだろうけれど、子ども心にはかなりのトラウマになった。

今回『エッシャー完全解読』を読んで、子どものころに抱いたエッシャーの不気味な印象を塗り替えることができた。もしかすると、僕自身が大人になったことで、だまし絵を落ち着いて楽しむ心の余裕が生まれたのかもしれない。

最近お絵描きに挑戦しているので、エッシャーの遠近法との苦闘(あくまで筆者の説だけど)には親しみがわいた。本書で取り上げられなかった作品も、もう一度ちゃんと観察して、彼が施したトリックを探してみたい。




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