塩田武士さんの『踊りつかれて』を読みました。
ネット上での誹謗中傷者の暴露といういかにも現代的な設定かと思いきや、昭和の香り漂う作品でした。
感想・レビュー
冒頭の「事件」を読んで、社会的な波紋や誹謗中傷者側のリアクション、難航する犯人捜しみたいなものを中心に描かれるのかと考えていたら、「そっちを深掘りするんかい!」となった。予想と違う話だったからといってつまらないというのは横暴だが、昭和チックな音楽業界の昔話が長く、途中は少し退屈に感じた。元々は週刊文春で連載されていた作品なので、ターゲットの年齢層が僕よりだいぶ上の世代なのかもしれない。僕も、もし小説に『トリビアの泉』や任天堂のWiiが出てきたら興奮すると思うので、作品の受け取り方にはどうしても世代間のギャップが出てくると思う。
最近読んだ角田光代さんの『方舟を燃やす』も1970年頃からの世相をじっくり描いていて時代を感じたが、あちらは「信じる」ことに対する一貫したテーマがあった。『踊りつかれて』の方は、瀬尾や美月の過去の話が誹謗中傷事件とは直接関係ない部分が多く、やや唐突な印象を受けた。構成自体に違和感があるわけではなく、内容もしっかり取材して書かれていたが、主軸として読むべきテーマが、アイドルとそれを支えた男なのか、誹謗中傷に対する憤りなのか、読者としての立ち位置がなかなか定まらなかった。
メインテーマである(と僕が勝手に考えていた)SNSなどによる誹謗中傷については、とても真っ当な指摘がなされていた。ただ、真っ当な意見だからこそ醒めていく自分もいて、それこそがこの問題の闇深さだと思った。きっと誹謗中傷を行うような人たちはこの小説のような長めの作品は読まないだろうし、読んでも要約やレビューなどだけで内容を理解したつもりになって感想を述べる気がする(完全な偏見だが)。同じ設定(誹謗中傷者の暴露)で若い作家さんが小説を書いたらどうなるのかは見てみたい。
さいごに
ネットでの誹謗中傷に関しては、被害者側を支える仕組みがもっと充実すればいいなと思います。言論の自由は大切だけど、明らかな暴言や殺害予告に関しては、AIとかで自動検閲するのもありなんじゃないかな……。
法整備にしろ自然消滅にしろ、いつか誹謗中傷が過去のものになって、ネット空間がびくびくおびえず情報交換ができる場になることに期待します。
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