【2025年12月】今月読んだ本の感想まとめ

【2025年12月】今月読んだ本の感想まとめ(感想・レビュー)

12月に読んだ本の感想を書いていきます。

タイトルに「Kindle Unlimited」と付けているのはAmazonのKindle Unlimitedで読んだ本、「Audible」と付けているのはAudible(オーディブル)で聴いた本です。


※読み放題や聴き放題の対象作品は変わることがあるので注意!
(特にKindle Unlimited)

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読書記録(2025年12月)

エレファントヘッド


倫理観のタガが外れている。だからこそ描ける世界観があるのだろうし実際なかなか面白かったのだけど、人に薦めるのは憚られる。解くべき謎も事件のトリックも最悪。人の命を道具にして楽しむミステリそのものの不謹慎さが剥き出しになっている。ここまでやるかと感心する反面、ここまではしなくてもいいとも思う。

一冊に惜しみなくネタが詰め込まれていて完成度は高かった。平行世界の話はリボーンの白蘭さんを思い出す。人の死がすべての時間軸に波及するのは冷静に考えるとかなり無理のある設定だが、一つ一つの展開が力強すぎてどうでもよくなった。

平場の月(Kindle Unlimited)


一人称の文体が素晴らしい。小説っぽいよそ行き感がなく、主人公(青砥)の人柄がそのまま文章になっているようだった。そしてなにより、切ない……。
 
映画版の主演が堺雅人なのは解釈一致。堺さんはそこそこ年配なのに、心に少年みたいな純粋さを宿してる雰囲気がある。そういえば同じく堺さんが演じていた『ゴールデンスランバー』の主人公も名前に「青」が入っている。両者とも大人になり切れていない「青臭さ」を感じさせるためのネーミングなのかもしれない。
 
ストーマ(人工肛門)に関しては過去に自分もやんわり提案されたことがあり、完全に他人ごととは思えなかった。絶対にやりたくないので敢えて詳しく調べないようにしていたが、こんなところで遭遇するとは。将来的にやらざるをえなくなる可能性もあるので、その時までには快適に使えるように改良されていてほしい。というか、上手いこと腸の途中だけを人工物に置き換えて、自前の肛門と接続できるようにしてほしい。頼む、医療の進歩!

まず良識をみじん切りにします


どことなく『世にも奇妙な物語』や星新一のショートショートを思わせる空気が漂っている。ちょっとした感覚のずれが段々とエスカレートしていき、本来なら歯止めとなってくれるはずの現実が不安を煽るように溶けていく感じ。同著者の他作品にあるような伏線と回収の鮮やかな仕掛けがなくて若干物足りなかったが、理屈っぽいところは非常に浅倉さんらしい。

直前に読んだ『エレファントヘッド』に比べたら「良識」はそこまで切り刻まれている気がしなかった。これは文庫化するときにタイトルが変更されるパターンかもしれない。(新川帆立さんの『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』は文庫だと『令和反逆六法』に変わってて続編なのかと思った)

名づけの難しさは作中(「完全なる命名」)でも語られていて、自分が子どもの名前を考えることになったら、僕も主人公と同じくらい悩みそう。このブログのハンドルネームも「別の名前にしておけば……」と後悔するときがいまだにある。小説家は新しく登場人物が出てくるたびにこの苦しみを味わっているんだなと思うと尊敬しかない。

ザ・ロイヤルファミリー


「です・ます」調で描かれた一人称の文体がさわやか。競馬というギャンブルが題材なのに、終始一貫して主眼がお金儲けでなく馬への愛に置かれており、欲望にぎらつく人々の嫌な熱気がこもっていないのがよい。一番最後の、本だから、競馬だからこその演出にはしびれた。

「馬主」は「ばぬし」ではなく「うまぬし」と呼ぶのが正式だというのは初めて知った。親やきょうだいも「へー」と感心していたが、いつまでたっても耳に馴染まなかったため、我が家では「ばぬし」で統一することになった。

日本語の秘密(Audible)


4人のゲストとの対談が4つとも面白いという稀有な本。主観的なものだと思っていた「しっくりくる」という感覚が言語学の知見から理路整然と解き明かされていくのは楽しい。特に短歌は自分でもたまに投稿することがあるので、字余りや頭韻の考え方は参考になった。

ラップはあまり聴かないこともあって、わざわざ「日本語ラップ」と「日本語」を強調して呼ぶくらい日本語と英語でラップとの親和性に差があるとは知らなかった。日本の音楽は歌詞に英語を入れても違和感がないから融通が利いて便利だと思っていたけど、ラッパーはいろいろ考えて曲作りをしているんだなと感心。少し前に流行ったCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」も改めて聴くといろいろ工夫されていることに気づく。ボーボボの「亀ラップ」は今聴いてもやっぱり意味が分からない。

山寺宏一さんは前々からすごいと思っていたが、言語学的な分析を聞くとより一層とんでもない人だというのが伝わってくる。対談を聴いていると、演技力や発声技術以上に、仕事に向き合う真摯な姿勢に頭が下がる。 子供のころ「おはスタ」の司会だとしか認識していなかった「山ちゃん」がいろんなアニメキャラの声を演じていると知ったときの驚きが懐かしい。このオーディオブックでは山寺さんの声を別の人がナレーションしていて、なんだか不思議な気分になった。

GOAT Winter 2026「美」

高瀬隼子 (著), 九段理江 (著), 山口未桜 (著)

1巻目の「愛」と2巻目の「悪」はKindle版で買ったが、BSテレ東の「あの本読みました?」で紙にこだわっていると聞き、今回は紙書籍を購入。ぱっと見文字が小さくて読みにくいのではと心配したが、色やフォントが工夫されているおかげか、意外なほどに読みやすい。手触りが抜群によく、次回も絶対に紙で買おうと思った。毎回思うけど、いまだに510円なのが信じられない。

小説はどれもレベルが高く、打率8割くらいはあった。高瀬隼子さんや九段理江さんの作品は、驚くような落ちがあるわけでもないのに読み応えがある。こういう「小説としての価値」を感じる作品はどうやったら生み出せるのだろう。その他の作家さんの作品も「美」の方向性がそれぞれ違って面白かった。

対談やインタビューは全体的に無駄が省かれすっきりした印象。たぶん実際の会話は大幅にカットされているのだと思う。編集の仕方に出版社の美意識を感じた。ここで「IIISU」を持ってくる佐藤究さんのセンスには脱帽。

あんなにあんなに

ヨシタケ シンスケ (著)

和む。実際の子育てはもっともっと理不尽な苦労が多いのだろうけど、ヨシタケさんの本は「でもさ、そういうところが楽しいんじゃない?」と語りかけてくれている気がする。こういう本を読むたび、結婚して家庭を築く、いわゆる「普通の人生」を送っている人がまぶしく見える。来世頑張ろう。

とんこつQ&A


表題作は接客のためにメモを取るという設定からは予想もつかない展開。語り手の雰囲気が似ているせいか、『むらさきのスカートの女』と同じ声色で脳内再生された。一見従順で自由意志が欠落しているような「おかみさん」がほんのちょっとだけ見せる反逆の描写はよいアクセントになっている。突然JOYを出してくるのはずるい。JOY……。

藤子F不二雄の漫画が「S(少し)F(不思議)」なら、今村夏子の小説は「S(少し)F(不穏)」。ホラーとまではいかないが、読んでいると心がざわつく。現実と作品世界を隔てるレースのカーテンが何度もめくれそうになりながら、最後まで向こう側が見えない。そんな感覚を今回も味わった。

「文」とは何か


おもしろ豆知識本かと思ったら、言語学的に「文とは何か」を真面目に考察した本だった。何かしらの答えを教えてくれるというより、安易に答えを出すことはできないんだよ、ということを教えてくれる。第9章は違和感のない文章を書く上でかなり重要なポイントだと思うので、ぜひ多くの人に読んでほしい。

書き言葉も会話文も全部ひっくるめて説明できる統一見解を示そうとする試みは科学で言うところの大統一理論みたいで、夢はあるけど実現は難しそう。日本語と英語を比較しつつ、それぞれを切り分けて論じようとする著者の姿勢は賢明だと思う。

火星の女王

小川 哲 (著)

最初はNHKのドラマを見ようとしたが、字幕が多用されていて見るのがつらくなり、ギブアップ。原作の小説では言語について特に言及はなく、ドラマも自動翻訳が発達したというていで日本語でしゃべってくれればよいのになと思った。小説だと登場人物の見た目の描写もほとんどなく、人種や国籍を意識させないようにしているのが伝わってきた。

個人的にはもっと小川さんの想像する「100年後の未来」を覗いてみたかった(『百年法』や『スリープ』みたいな感じで)けれど、本筋に関係ない描写は最低限に抑えられて、気になる地球の状況については描かれていなかった。まあ、今回はテーマが違うからしょうがないか……。ストーリーは火星移住への考え方の違いによる対立がメインで、壮大なスケールの割に、そこまでSFっぽくなかった。どこまで意識していたのかはわからないが、人間社会の軋轢の描き方は非常にNHKのドラマ原作らしい。

「タグレス」に関しては、同著者の『ユートロニカのこちら側』を思い出す。マイナンバーカードでさえ拒否反応を示す人がいることを考えると、タグレスの多くは日本人の血筋なのかもしれない。


さいごに

年末になるとメディアや雑誌でいろんな本のランキングを目にしますが、だいたい自分の感覚とずれていて、モヤっとすることが多いです。

本の好みは人それぞれなので、自分に刺さる本は自分で探さないとダメですね。

来年は他人のレビューを気にせず、いいなと思った本はどんどん読んでいきたいです。

それでは、よいお年を!


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