アイデンティティはどこにある?平野啓一郎『ある男』を読んだ感想。

ある男_平野啓一郎_アイデンティティはどこにある?平野啓一郎『ある男』を読んだ感想・レビュー。


平野啓一郎さんの『ある男』を読みました。

AmazonのKindle Unlimitedで読み放題になっているのを見つけて、即ダウンロード。

読み手の年齢や家庭環境によって、受ける印象が大きく異なりそうな作品でした。

あらすじ・概要

脳腫瘍で2歳の息子を亡くした里枝は、治療法方針を巡って対立した夫と別れ、もう一人の息子、悠人とともに、故郷の宮崎へと帰る。

里枝は実家の文房具店で「谷口大祐」と出会い、結婚。新たに女の子、華も生まれ、幸せな生活を送る。

ところが、再婚相手が事故で死んでしまい、衝撃の事実が発覚。なんと、彼は「谷口大祐」とは全くの別人だった。

果たして、この男は何者なのか、なぜ嘘をついていたのか―


感想・レビュー

アイデンティティは過去にはない

この作品では戸籍の交換によって「他人の人生を生きる」のがテーマでしたが、正直、そこまで共感できませんでした。

おそらく、僕がまだ20代で、過去よりもこれからの未来の方が長いからだと思います。

まあ、登場人物のように、生まれや家族に厄介な問題を抱えているわけでもないですし。

年を取って人生にある程度の「重み」がつかないと、他人の経歴を手に入れる魅力はわからないのかもしれません。


そもそも、僕は難病持ちなので、名前や過去を上書きしても、体が入れ替わりでもしない限り、自分の一番嫌な部分が消えないんですよね。

血のつながりやこれまでの経験、精神など、アイデンティティをどこに感じるのかは人それぞれ。

僕の場合、面倒な病気になったことで、肉体への愛着が強まった気がします。

持病のクローン病が治ったら、人格も変わりそうですね。(いい意味で!)

悠人くん頑張れ!

里枝の息子の悠人君が最後まで荒れなかったのには、読んでいて安心しました。

身内が3人もなくなっているのに、母や祖母に優しく接することができるのは、普通考えられません。

この子はきっと大物になると予想します。


ただ、悲しみを文学に昇華する様子は、世間に絶望しているようにも見えて心配。

無条件に幸福を信じられる子供らしい時期がないのはかわいそうですね。

底抜けに明るい妹の華ちゃんに、ぜひ助けてあげてほしいです。


さいごに

『ある男』は、なぞの男の正体が気になって、最後まで一気に読んでしまいました。

そこまで意外な結末ではなかったものの、その分実際にありそうなのが惹きつけられるところ。

名前や過去を失ったときに、自分が自分だと証明できるものはあるのかと、今もまだ考え中です。


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