ヘルマン・ヘッセの『車輪の下で』を読みました。
穏やかな話かと思っていたら、悲しすぎる展開で唖然。
この結末は、ちょっとトラウマになりそうです。
あらすじ・概要
村一番の秀才である少年ハンスは、難関試験を突破し、エリートコースへとつながる神学校へ入学する。最初は前向きに勉学に励むハンスだったが、友人ハイルナーとの出会いをきっかけに、だんだんと落ちこぼれていく。
ついには心を壊し、帰郷を余儀なくされる。
一時回復したかに思われたが、失恋やつらい仕事を経験し、彼の人生はある日突然に閉ざされてしまう。
感想・レビュー
学生の苦悩はいつの時代も同じ
優等生だったハンスが勉強で消耗していく様子は、読んでいて胸が痛みました。周囲からの期待を自発的なやる気と勘違いしてしまうのはよくわかります。
結局、勉強したことは大して役に立たなくて、後で虚しさに襲われるという……
僕も、成績が良くてまじめに勉強したけど、体調を崩して現在無職の人間なので、つい自分と重ねてしまいました。
このやりきれない感覚を共有できる人が、時代も国も違う場所に存在していたと知って感動です。
でも、自分の気持ちには嘘を付けない、かといって勉強も投げ出せないハンスみたいな少年を救うにはどうすればいいんでしょう?
物語に出てくるルツィウスのように、損得だけで割り切って勉強に集中できたら楽なんですけどね。
あるいは、ハイルナーのように、完全に学校の枠から外れてしまうか。
作者も文章中でこれでもかと学校批判をしていますが、いつまでたっても変わりませんね。
ハンスの死は予想外
『車輪の下で』で、最も印象に残ったのは、やはりラストシーン。ハッピーエンドではないとは思いましたが、まさか主人公が死んでしまうとは……
情け容赦のない著者の采配に驚きです。
もし僕が書くなら、
・平凡な労働者としての生活を受け入れる
・酒におぼれて破滅
のどちらかですね。
ただ、ハンスの繊細な性格を考えると、違和感を我慢し続けることも、堕落しきることもできそうにないので、死ぬのが唯一の解決策だったのかも。
せめて仕事と恋人のどちらかだけにでも恵まれていればよかったのに……
ちなみに、ハンスの死が事故か自殺かは明らかにされていませんが、僕は酔いで負の感情が抑えきれなくなり、自ら川に入ったのだと思います。
アルコールと出会うタイミングも最悪で、ひたすらにかわいそうです。
ヘッセの人生も大変だった
解説によると、『車輪の下で』には、ヘッセ自身の体験が色濃く反映されているとのこと。実際にヘッセの年譜を見てみると、登場人物との共通点が多くありました。
どうりで描写がリアルなわけだ……
ヘッセがすごいのは、神学校を逃げ出して一度は自殺を試みながらも、そこから立ち直りノーベル文学賞まで取っているところ。
運命に選ばれた彼が、選ばれなかった者たちの気持ちを代弁していると思うと、ハンスの死にも重みを感じます。
さいごに
この作品のタイトルは「車輪の下」と訳されているものが多いですが、僕が読んだ光文社古典新訳文庫では、助詞の「で」がついていました。
たった一文字で印象が変わるなんて、翻訳は奥が深いですね。
海外の古典文学を、現代のわかりやすい日本語で読めることに感謝です。
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