光文社古典新訳文庫のO・ヘンリー『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編』を読みました。
どの話もきちんと落ちがあって、結末を予想しながら読むのが楽しかったです。
今回は、僕が気に入った5つの短編の感想を書きます。(ネタバレ注意!)
最後の一葉(The Last Leaf)
あらすじ
売れない絵描きの集まる「芸術村」で暮らすジョンズィは、流行り病の肺炎にかかってしまう。ジョンズィは、窓から見える壁に生えた蔦の葉が次々と落ちていく様子に、弱っていく自分を重ねる。
「葉が全部落ちたら私の命も終わり」と絶望するものの、激しい風雨に耐え続ける最後の一葉に励まされ、無事回復。
実は、決して落ちない蔦の葉には秘密があった……
感想
葉っぱが壁に描かれた絵だった、という結末は知っていましたが、予想の2割り増しくらい感動的な話でした。ジョンズィを救った葉が、落ちぶれた画家が命懸けで描いた、最後の傑作だったとは……
雨の中びしょ濡れになりながら、必死でレンガの壁に筆を走らせる老画家を想像すると、涙が出そうになりますね。
あと、ストーリーとは関係ないけど、ジョンズィの相棒のスウが涙を拭くときに使っていたナプキンが、なぜか日本製。
海外の有名な作品に、日本製品が登場すると嬉しくなるのは、僕だけでしょうか?
ただ、「メイドインジャパン」が当時どのようなイメージだったのかはよくわかりません。
悪い意味だったら残念だなあ……
意中の人(Girl)
あらすじ
29歳、株式仲買事務所の経営者であるハートリーは、探偵を雇い、意中の女性、ヴィヴィアンの居場所を突き止める。直接会って、必死に口説くハートリー。
最初は迷っていたヴィヴィアンだったが、彼の家にいる女、エロイーズが出ていくことを条件に、ついに「イエス」の返事をする。
自宅の玄関で妻と対面したハートリーは、果たしてどんな言葉をかけるのか?
感想
この短編集の中で、僕が一番「してやられた」作品がこれ。最後のハートリーの妻のセリフを読んで、思わず笑みがこぼれました。
ヴィヴィアンを口説いていたのは、恋人としてではなく、料理人としてだった、という単純な落ちですが、セリフ回しが巧妙。
翻訳での言葉の選び方もうまく、気持ちいいくらいきれいに騙されました。
読み返してみると、ヴィヴィアンが料理人であるヒントが違和感なく散りばめられていて、完成度の高さに感心します。
感動や教訓は無しにして、意外性に全力を捧げているところが好きですね。
賢者の贈り物(The Gift of the Magi)
あらすじ
愛する夫にクリスマスの贈り物をしたいデラは、貧しい生活の中で必死に倹約するが、1ドル87セントしか貯まらない。そこで、彼女が決意したのは、自慢の美しい髪の毛を切って売ること。
髪と引き換えに得たお金で、夫の宝物である金時計に合う、プラチナの時計鎖を買う。
ところが、帰宅した夫のジムは、デラの姿を見て呆然。
なんと、彼は金時計を売り、妻の髪につける櫛を購入していた。
感想
互いを大切に思うあまりに空回りしてしまった、愛にあふれる夫婦の話。まさに「お金で買えない幸せ」ってやつですね。
クリスマスに贈り物をする相手がいるだけで、僕としてはうらやましい限り……
しかも、どちらのプレゼントも無駄になったわけではありません。
妻の髪が伸びるのを楽しみに、仲良く暮らす2人の姿が目に浮かびます。
時計の鎖の方も、プラチナ自体に価値があるので、実際に賢い贈り物だったのかも。
いずれにせよ、ハードルが上がりまくった来年のクリスマスに、「賢者」が何をプレゼントに選ぶのか気になります。
ちなみに、「収入が週30ドルだと余裕があるが、週20ドルだと厳しい」という記述から推測するに、当時の1ドルの価値は、現在の約2000円相当。
すると、デラの売った髪は、約4万円!
みなさん、女性の髪の毛は大切に扱いましょう。
多忙な株式仲買人のロマンス(The Romance of a Busy Broker)
あらすじ
ハーヴェイ・マクスウェルは忙しい株式仲買人。時間に追われながら、機械のように大量の仕事をこなしていく。
そんな彼が、事務所で働く速記者の女性に、いきなりのプロポーズ。
返事を急かすマクスウェルに対し、呆気にとられる女性。
それもそのはず、2人は昨夜、教会で結婚式を挙げたばかりだった。
感想
恋愛なんて眼中になさそうな男の突然の求婚に、まず驚き、すでに結婚済みだったという結末に、もう一度虚をつかれました。結婚した事実を忘れるのはひどいですが、それでもまた告白するところに、深い愛を感じます。
時間がないと言いながら、きちんと教会で式を挙げているわけですし。
また、相手の女性のリアクションも、怒りが全くなくて素敵。
優しすぎる言葉に、ほんわりとした気分になりました。
女性が頬をひっぱたいて終わり、じゃなくてよかった!
心と手(Hearts and Hands)
あらすじ
急行列車に乗る女性の向かいに、2人の男がやってくる。彼女は片方が知り合いのイーストンだと気づくが、彼の右手は、もう一方の男の左手と、手錠でつながれていた。
彼らの話によると、イーストンは保安官で、犯人を刑務所まで護送中なのだそう。
談笑したのち別れた3人だったが、実は男たちの関係は、話とは真逆だった。
感想
女性に対するイーストンの面目を保つために、気の利いた嘘をつく保安官の話です。僕は最後まで秘密に気づかず、イーストンが保安官だと思ってました。
先に事情を説明し始めたのが、もう一人の男だったところがミソですね。
とはいえ、いかにも犯罪者っぽい保安官の描写は、改めて読み返すとかわいそうになります。
「見るからに不機嫌そうな暗い顔」で「着ているものも粗末」って、ひどい……
あと、「保安官なら自分の右手に手錠をつなぐはずがない」という点はちょっと疑問。
左利きなら別に問題ないんじゃないかな?
よく探してみたけど、イーストンが右利きであるはっきりした根拠は見つかりませんでした。
単なる僕の読み込み不足だったらごめんなさい。
さいごに
O・ヘンリーの文章は、一見さらっと書いているようで、落ちを最大限生かすため、構成がよく練られていました。登場人物の職業や状況設定も多様で、知識人のにおいがプンプンしますね。
僕のブログの文章は、果たして……?
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