ヘミングウェイ『老人と海』を読んだ感想。老人もカジキも海には勝てない。

老人と海_ヘミングウェイ_ヘミングウェイ『老人と海』を読んだ感想。老人もカジキも海には勝てない。


ヘミングウェイの『老人と海』を読みました。

老人もカジキも体力がすごい!

だけど、海はそれ以上に厳しいなあ……

あらすじ・概要

85日間不漁続きのサンチャゴは、大物を目指し、一人沖へと舟を出す。

そこで仕掛けに食いついたのは、巨大なカジキ。

3日間の闘いを経て、老人はついにカジキを仕留める。

しかし、陸へ戻る途中でサメに襲われ、せっかくとった大物は彼らの餌食に。

無事港にたどり着いたサンチャゴだったが、残ったのは頭と尻尾のついた、白い背骨だけだった。


感想・レビュー

老人はよくしゃべる

まず、全体を通して印象に残ったのは、サンチャゴの独り言の多さ。

「寡黙な頑固老人」をイメージしていたのに、まさかこんなにしゃべるとは……

海で鳥や魚に語りかける温かい言葉に、一気に親しみがわきました。

舟の上で長時間一人きりの漁師にとって、自然との対話は必要不可欠なのかもしれませんね。

傷ついた両手を、まるで人間のパートナーのように鼓舞する様子からは、長年自分の体を頼りに戦ってきた、ベテラン漁師ならではの感性が伝わってきます。


ちなみに、翻訳者のあとがきによると、従来の訳では、老人の独り言は大声や叫び声になっているパターンが多いそうです。

個人的には、この本(光文社古典新訳文庫)の穏やかな雰囲気が、何があっても落ち着いて対処する、老人の精神のしなやかさに合っていてお気に入り。

声を荒げるサンチャゴは、あんまり見たくないなあ……

カジキを倒した老人も負ける

老人がカジキを獲ってめでたしめでたし、で終わらないのが、この小説のいいところ。

苦境に立たされることで、サンチャゴの命や漁、勝ち負けに対する価値観が、より鮮明に描き出されています。

やはりピンチに追い込まれないと、人間の本質は見えてきませんからね。


とはいえ、カジキが鮫にどんどん食い散らかされていくのは、読んでいてつらい!

一度ではなく、段階的に削られていくのが、なんとも痛々しかったです。

サンチャゴも疲れ果てていて、もしかしたら死ぬんじゃないかと思いました。


3日間船を曳き続けたカジキも、それを仕留めたサンチャゴもすごいですが、最後はどっちも負け。

骨だけになったカジキと小屋で眠る老人。

力尽きた両者の姿が、海の厳しさを物語っています。


登場人物の年齢は?

読んでいてずっと気になっていたのが、登場人物の年齢。

サンチャゴもマノーリン(少年)も作中では何歳なのか示されていなかったので、もやもやしました。

翻訳者の解説によると、研究者の間でも意見が分かれていて、明確な答えはないそう。

一応、少年については、野球についての会話から10歳と22歳の説があるみたいですが、どちらも極端すぎますよね。


僕の想像では、

・サンチャゴ(老人)65歳
・マノーリン(少年)13歳

くらいかな……

マノーリンの方は、翻訳者の小川さんが10代前半のイメージで訳したそうなので、そのまんま。

サンチャゴに関しては、60歳は超えているだろうけど、体力的に70代まではいかないのではないかと。

いずれにせよ正解はないので、僕の中ではそういうことにしておきます。


さいごに

光文社古典新訳文庫は解説が充実しているのが魅力で、僕はいつも読むのを楽しみにしています。

今回の『老人と海』では、翻訳の意図について特に詳しく書かれていました。

過去の訳と比較されるプレッシャーの中、わかりやすい新訳を出してくれる方々に感謝です!