松宮宏さんの『まぼろしのパン屋』を読みました。
この本には、食べ物にまつわる短編が3つ収録されています。
今回は、表題作の「まぼろしのパン屋」の感想を書きます。
あらすじ・概要
大手企業に勤める主人公は、満員電車の座席争いもベテランの、典型的なサラリーマン。ある日の休日出勤の途中、謎の老女から絶品のフランスパンをごちそうされる。
パンの袋に書かれた住所を頼りに老女のもとを訪れた彼は、思いもよらぬ真実を知る。
感想・レビュー
主人公のリアクションが薄い……
いい話ではありましたが、いまいち感動できませんでした。心情描写が少ないというか、淡々としていて、無機質な印象。
肝心のパンを食べたときのリアクションがあっさりしていて、もっと「主人公ならではの言葉」が聞きたいなあ、と思いました。
若干展開が読めてしまうだけに、期待より主人公の気持ちの振り幅が小さいと、肩透かしを食らったような気になります。
ジェネレーションギャップ
と、いきなり批判的なことばかり書いてしまいましたが、僕の心に響かなかったのは、作品の時代背景の影響も大きいです。終身雇用を前提として、出世レースで疲弊したり、35年ローンで家を買ったりするのが、一般的な会社員像として語られているのは、違和感がありました。
まあ、舞台が1980年代なので、今と違うのは当たり前なんですけどね。
小説を読んでいてポケベルが出てきたりすると、「え、この本いつの?」とつい出版年を確かめてしまいますが、そのくらいジェネレーションギャップを感じます。
実際確認してみると、この作品自体は2015年の書下ろしですが、著者は1957年生まれで、やはり年配の方。
まだ20代の僕と価値観がずれるのはしょうがないですね。
同年代の人が読むと、すんなり感情移入できるのかもしれません。
朝の電車は椅子取りゲーム
この小説の中で印象に残ったのは、たびたび出てきた通勤電車の描写。主人公がどうにかして席に座ろうと、思考を巡らせる様子に4ページ近く割かれていて、作者の熱量が伝わってきました。
きっと実体験で、どうしても書きたかったんだろうなあ……
僕も学生時代は電車で通学していたので、どうすればスムーズに座れるか、常に意識して動いていました。
世代は違っても、そこは共感できますね。
ただ、東京の満員電車は、人の多さが異次元。ハイレベルな椅子取りゲームには、できれば参加したくないです。
さいごに
この本の短編は、3つとも心温まるストーリーでしたが、僕としてはもう少し盛り上がりがほしかったです。やはり、小説は人によって好みがわかれますね。
自分の感性を知ることができるのは読書の醍醐味なので、これからもいろんな作品を読んでいきたいです。