大崎梢さんの『配達あかずきん 成風堂書店事件メモ』を読みました。
本屋さんが舞台ということで、実在する本のタイトルが多数登場。
また気になる1冊を見つけました。
あらすじ・概要
物語の舞台は、駅ビルの6階に店舗を構える本屋、成風堂。そこで働く書店員の京子とバイトの多絵のもとには、次々と事件が訪れる。
本屋ならではの知識とひらめきを頼りに、2人は謎を解いていく。
本書では、以下の5つの短編を収録。それぞれ独立した内容でした。
① パンダは囁く
② 標野にて 君が袖振る
③ 配達あかずきん
④ 六冊目のメッセージ
⑤ ディスプレイ・リプレイ
感想・レビュー
「本屋」の小説
この本は「ミステリー」というより「お仕事小説」として楽しめました。本屋さんを舞台にしたミステリーはたくさんありますが、書店員の仕事をここまで誠実に描いているものは珍しいです。
シフトの組み方や出版社とのやり取りなど、客からは見えない日常業務の裏側がリアルに伝わってきて、本屋好きにはたまりませんでした。
陳列の飾りつけを競うコンテストが行われているというのは初耳ですね。
僕もいつか本屋さんで働いてみたいなあ……
あと、個人的に感心したのは、万引きの話がなかったこと。
書店を扱ったミステリーなら、必ずといっていいほど本が盗まれる事件が起きますが、この本では一つも出てきませんでした。
万引きは、本を隠すトリックだったり盗んだ動機だったりと、謎を作りやすいんですけどね。
あえてそれを題材に選ばなかったところに、長年書店員として働いてきた著者の、お客さんへの信頼を感じます。
ただ、立ち読みのマナーや情報の抜き取りについては、読者への注意喚起とも受け取れる描写がありました。
今どきは、スマホで本の内容を簡単に撮影・保存できますが、立派な犯罪行為なので絶対に止めましょう!
ミステリーとしては……
ミステリーの謎解き部分に関しては、正直なところいまいち。もっと答えがわかったときの爽快感がほしいですね。とくに、1話目の暗号は強引で、仕掛けがストーリーにうまくはまっていない印象でした。
また、3話目までは、主人公の2人が事件の現場から離れすぎ。
解決後の事実確認が「あとでわかったことだが……」と伝聞調の説明になっていて、なんだかモヤっとしました。
たしかに、現場に行かず話だけを聞いて謎を解く「安楽椅子探偵」は推理小説の定番ですが、2人組の両方が探偵役なのはちょっと……
一応、杏子が知識担当、多絵がひらめき担当という形にはなっているものの、どちらも書店員で行動範囲が同じだと退屈。
せめて片方が直接事件に遭遇するなど、もっとはっきりした役割分担があってもいいのではないかな、と。
思わず心の中で、「事件は本屋で起こってるんじゃない、現場で起こってるんだッ!」と叫んでしまいました。(元ネタがわからない人ごめんなさい)
しかしながら、5話目の盗作騒ぎの落ちは好き。
事件の犯人や動機が分かった後で、もう一段上のタネ明かしが用意されていて、気持ちよく本を閉じることができました。
短編集は最後の話のできがいいと、読後感がスッキリですね。
新たな本との出会い
「書店ミステリ」の醍醐味といえば、新しい本との出会い。知っているタイトルが出てくるのもうれしいですが、僕はまだ読んだことのない作品を紹介してもらった方がありがたいです。
この本では、登場する作品の説明が非常にあっさりしていて、逆に内容が気になってしまいました。
中でも、第4話に出てきたロバート・A・ハインラインの『夏への扉』は、あらすじが面白そうだったので、Amazonのほしいものリストに追加。
普段SFはめったに読みませんが、ファンの多い名作らしいので、期待は高め。
いつかブログに感想を書くのが楽しみです!
さいごに
この本では、書店員の仕事の描写が詳細で、実際に本屋さんで働いた人にしか出せない空気感がありました。近頃の本屋さんは、雑貨屋が入っていたり、コーヒーを飲みながら座り読みができたりと日々進化しているので、小説も時代に合わせて変わっていくと面白いですね。
今のところ、僕の中では『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズが、本に関する謎解き作品のナンバーワンなので、これを超える傑作が出てくることに期待します。
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