Kindle Unlimitedで窪美澄さんの『水やりはいつも深夜だけど』を読みました。
この本には6つの短編が収録されていて、どれも主人公はそれぞれの家庭の中で生きづらさを感じている人々。
今回は一つ一つの作品について、簡単なあらすじと感想を書きます。
ちらめくポーチュラカ
あらすじ
女性同士の人間関係にトラウマを持つ主人公は、ママ友のコミュニティで嫌われないように、細心の注意を払う。ブログでは理想の生活を装っているが、内面とのギャップに精神は疲弊していくばかり。
そんなある日、ふとしたきっかけで、彼女の心境に変化が訪れる。
感想
周囲からの視線を気にして背伸びしていた女性が、本来の自分を取り戻していく話。大きな事件が起きるわけでもなく、展開も予想通りでしたが、肩の荷をそっとおろしてくれるような優しさがありました。
僕が印象に残ったのは、次の部分。
私の気持ちは写真には写らない。その写真をネットの向こうの見知らぬ誰かに見せる必要なんてないんだ。私の目と耳が、覚えておけばいいんだから。それがいつか、私の記憶から消え去ってしまうとしても。
ブログやSNS をやっていると、たびたび「経験した出来事はすべて公開しなければ」という謎の義務感に襲われます。
そんなときはこの言葉を思い出すと、気持ちが楽になりそうです。
サボテンの咆哮
あらすじ
子ども時代、父親とほとんど口をきかなかった主人公は、うまくいかない自分の家庭に危機感を覚える。妻の両親との同居話が持ち上がり、夫婦の関係はますますぎくしゃくしていく。
感想
段々と歯車が狂っていく夫婦の様子に、家庭を持つことの大変さを感じました。子育てには、努力だけではどうにもならないものがありますね。
運動会の場面で義母が主人公に発した言葉は、ストレート過ぎて辛辣。
僕だったら、同居するのは怖いな……
ゲンノショウコ
あらすじ
主人公は妹が知的障害だったせいで、自分の娘の成長に必要以上に過敏になる。実は、妹との過去には、夫にも言えない秘密があった。
感想
身近に障害を持った子供がいたらどう接するべきなのか、事情をわかっているはずなのに冷たい対応を取ってしまう主人公のやるせなさが、ひしひしと伝わってきました。普通の子と変わらず愛すればいいなんて、しょせんはただのきれいごと。
他人からの差別にも、自分の中に生まれる偏見にも、逃げずに向き合っていくしかありません。
砂のないテラリウム
あらすじ
妻からの愛情を感じられなくなった主人公は、既婚者であることを隠し、ひそかに他の女性と連絡を取り合う。徐々に近づく彼女との距離に、いつ真実を告白すべきか頭を悩ませる。
感想
この話だけ、息苦しさを残したまま終わり。主人公の罪の余韻が最後まで漂っていました。個人的には、家庭を持ちながら新たな女性に手を出す主人公には共感できず。
つい魔が差したみたいに書かれているけど、全然しょうがなくないぞ!
かそけきサンカヨウ
あらすじ
主人公の陽は、父親が子連れの女性と再婚し、変わり始めた生活になじめない。モヤモヤを抱えたまま、美術部の友人と、実の母親が開いた個展を見に行く。
感想
ある程度大人になってしまうと、新しい母親を受け入れるのは、それがどんなに素晴らしい女性であっても難しいと思います。まして、実の母親が生きているならなおさらですね。
僕だったら、「さん」付けから先には進めないだろうなあ……
また、美術部の友人、陸君に関しては、家庭の事情や手術の結果など、気になる部分がたくさん。
「えっ、ここで終わり!?」と思ったら、次の短編がこの続きだったので安心しました。
ノーチェ・ブエナのポインセチア
あらすじ
心臓の手術を無事乗り切った陸は、他人との境遇の違いに思い悩む。定まらない将来の進路、自分を巡って言い争う母と祖母。
募ったイライラは衝動となり、彼は突然走り出す。
感想
健康な人を見ていら立つ陸君の気持ちは、すごくよくわかりました。でも、「なんで自分だけ……」と思うハンデは、きっと誰にだってあるはず。
受け入れて前に進もうとする彼の姿勢を見習いたいです。
さいごに
家族をテーマにした小説を読むと、自分がまだ「子ども」の役割しか経験していないのだとつくづく実感します。果たして、いつか「夫」や「父」になる日は来るのか?
この先の未来で、自分がどうなるのか楽しみです。
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