伊坂幸太郎さんの『AX(アックス)』を読みました。
『グラスホッパー』、『マリアビートル』に続く、殺し屋シリーズ第3弾です。
今回の主人公は、思わず応援したくなる、家族思いの父親でした。
あらすじ
凄腕の殺し屋「兜」は、異常なまでに妻に気を遣う恐妻家。息子の誕生をきっかけに引退を決意するが、必要な金がたまらない。
渋々任務を続けるうちに、彼は命を狙われ始める。
感想・レビュー
過去作とは雰囲気が違う
シリーズ3作目となる『AX』は、主人公が冷静沈着で、家族と一緒のシーンが多いこともあり、落ち着いた気持ちで読めました。常に緊迫感があってハラハラドキドキだった過去2作と比べると、だいぶ雰囲気が違います。
バトルも肉弾戦というより頭脳戦が中心。
僕は気に入りましたが、母は「グラスホッパーの方がスピード感があってよかった」といっていました。人によって好みがわかれそうです。
ちなみに、この作品は連作短編となっていますが、大筋のストーリーはつながっていて、ほぼ長編と変わりません。
また、今作では過去に登場した殺し屋の名前がたくさん出てきて、今までの総まとめ的な印象。
話の内容からしても、殺し屋シリーズはこれで終わりかもしれませんね。
妻の名前は……
僕がいいなと思ったのが、主人公の奥さんの描写。暴力をふるったり声を荒げたりするわけではないのに、なぜか目を離すことを許さない不思議なキャラクターでした。
おそらく、つい注目してしまう秘密は、その名前。
他の登場人物と違って名前がわからないことで、「殺し屋が恐れる妻」としての象徴的な存在となっています。
キャラによって名前を出したり出さなかったりして登場人物の具体性にグラデーションを持たせる手法は、サンテグジュペリの『夜間飛行』でも使われていました。
『AX』の場合は、
息子と嫁:実名
殺し屋:コードネーム
妻:名前なし
という風に書き分けられていて、物語のイメージがより重層的に。
現実とファンタジーの世界が入り混じったような、奥深い読み心地でした。
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殺し屋に家族が必要な理由
この本を読んで、やはり最強の殺し屋には家族の存在が必要不可欠だなと思いました。もちろん、小説としての話ですけど。
家族を登場させるメリットは、主人公の外側に弱点を作り出せる点。
普通は主人公が強すぎると段々飽きてきますが、家族を使ってピンチを演出すれば、本人は無敵なまま、物語にメリハリが生まれます。
今回の兜も、戦っているときは絶対に負けないはずだという安心感がありながら、家族を狙われたらどうするのかという不安要素がありました。
個人的には、もう一人登場した家族持ちの殺し屋が、憎めなくて好き。
ラストシーンより、この二人が対峙する場面が一番面白かったです。
さいごに
作中では死人はたくさん出るものの、描写が淡々としていて、そこまでグロくありませんでした。やっぱり家族がテーマだからかな?
伊坂さんの小説はいつも殺人や拷問のシーンがきつめなので、毎回このくらいに抑えてくれると嬉しいです。
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