こうの史代『この世界の片隅に』を読んだ感想。どんな時代でも日常のきらめきは色あせない。

こうの史代『この世界の片隅に』を読んだ感想。どんな時代でも日常のきらめきは色あせない。


こうの史代さんの『この世界の片隅に』を読みました。

AmazonのKindle Unlimitedで上・中・下のすべてが読み放題になっていたので、3巻続けて一気に読破。

「戦争もの」は暗くて好きではありませんが、マンガとしての演出が見事で引き込まれました。

戦時中でも日常は続く

『この世界の片隅に』で印象的だったのは、戦時中にもかかわらず、笑顔のシーンが多かったこと。

大勢の人が亡くなったからといって、悲しみ一色で染まってしまうほど、人間は弱くないんだなと思いました。

戦争が悲惨な出来事なのは間違いないけれど、当時を生きた人々にも、喜びや幸せを感じる瞬間はあったはず。

「戦争」ではなく「日常」を主役に描かれた物語には、人の営みから生まれるユーモアが散りばめられていて、スッと胸になじみました。


心のきれいな人ばかり

暗い展開が待ち構えているのは確実なのに、穏やかな気持ちで読み進められるのはなぜだろうと考えてみたら、このマンガには「嫌な奴」が全く出てこないことに気づきました。

女の人が嫁ぐ話だと、普通は意地悪な義母や義姉が登場しそうなものですが、すずの嫁ぎ先はみんないい人ばかり。

ツンツンしているお義姉さんも、実は優しい人格者で、愛おしさを感じずにはいられませんでした。

まあ、最初相手の顔も見ずに結婚が決まったときはびっくりしましたが……。


結局、憎むべきは戦争だけ。

主人公と周囲の人々の心のきれいさが、争いの無益さを鮮烈に際立たせていました。


さいごに

最終回の「しあはせの手紙」は、一瞬背筋がゾクッとしましたが、言葉の意味を理解して安心しました。

「人はいつか必ず死ぬ」という当たり前の事実でも、いきなり突きつけられると動揺してしまうのは、それだけ平和な生活を送れている証拠なのかもしれませんね。

これからも永久に、戦争とは縁がないことを祈ります。