【書評の書評】これぞプロの洋書レビュー!宮脇孝雄『洋書ラビリンスへようこそ』を読んだ感想。

【書評の書評】これぞプロの洋書レビュー!宮脇孝雄『洋書ラビリンスへようこそ』を読んだ感想。


今回紹介するのは、宮脇孝雄さんの『洋書ラビリンスへようこそ』。

次に読む洋書を探すヒントになればと、興味のある部分だけ眺めるつもりだったのですが、巧みな文章に引き込まれ、結局全部しっかり読みこんでしまいました。

僕もこんな風に書評が書けたらなあ……。


本の概要

翻訳家である著者が、自身の琴線に触れた洋書を合計56作品紹介しています。

取り上げているのは20世紀後半の作品が中心で、ジャンルは小説から伝記、紀行文、英語論までさまざま。

それぞれの作品の項目では、内容と宮脇さんの感想に加え、著者の来歴や邦訳の出版状況など、洋書を楽しむのに役立つ基本情報が掲載されています。

紹介文の途中では、作品の一節が著者の訳とともに引用されており、簡単な英語のリーディング練習にもなる一冊です。


感想・レビュー

絶妙にマイナーな洋書チョイス

この本で取り上げられているのは、どれも名前を聞いたことのないマイナーな洋書ばかりでした。

前作の『洋書天国へようこそ』(僕は未読)では有名な古典を扱っていたみたいなので、あえて方向転換したのかもしれません。

さすが「乱読者」を名乗るだけあって、一体どうやって出会ったのかと思う掘り出し物がずらり。

不思議な図書館に迷い込んだような感覚で、タイトルの「ラビリンス」という言葉がぴったりです。


ちょっぴり残念だったのは、紹介されていた洋書の大半が電子化されていないこと。

どんな内容か気になってKindleで検索しても、なかなかヒットしませんでした。

出版された年代や権利関係の問題なのか、それとも電子化するほど売れていないのか。

最近、洋書はKindleで探すのが習慣になっていましたが、紙の本でしか読めない作品もまだまだ存在するようですね。

(ウィリアム・トレヴァーのThe Hill Bachelorsなど、Kindle版が出ている洋書もちゃんとあります)

書評の肝は作品の外側

宮脇さんの書評がすごいのは、自分が絶対に手に取らないであろうジャンルの作品であっても、興味深く読めるところ。

僕はホラーやスリラーが大の苦手なのですが、そういった系統の作品の紹介文も、拒否反応なく楽しめました。

おそらくその理由は、作品の書かれた経緯や著者の身の上話など、本を取り巻く背景知識が散りばめられているから。

優れた書評の条件は、本の中身だけでなく、外側に流れる物語を示せているかどうかなのでしょう。

割と重大なネタバレをしているのに許せるのも、落ち以外の本の魅力がしっかり伝わるからなのだと思います。


また、著者や登場人物の名前をカタカナに置き換えて表記するのは、僕にとっては画期的。

ブログに洋書のレビューを書くとき、人物名が英語のままだとおさまりが悪かったので、大変参考になりました。

まあ、邦訳が出ていないからといって、作品タイトルまで自分で和訳するのは、真似するのに気が引けますけどね。(そこはプロの技!)

宮脇さんの書評は、洋書レビューの素晴らしいお手本です。


僕が気になった3作品

紹介されていた洋書56作品の中で、僕がとくに気になったものを3つ挙げておきます。

William Trevor『丘の独身者たち(The Hill Bachelors)』

宮脇さんが最初に読むペーパーバックとして「最高のもの」と述べていたのが、ウィリアム・トレヴァー(William Trevor)の小説。

そんなすすめ方をされたら、もう読むしかないですよね。

幸いなことに、Kindle版も出てました。

20ページ程度の作品が12編収録された短編集なので、万が一飽きても力技で読み切れるはず。

Geoff Ryman『253』



ロンドンの地下鉄の乗客252人と運転手1人、あわせて253人分のストーリーで構成される異色の作品。

電車の乗客たちの本音を一人ずつ描写していく話は東野圭吾の短編であったけど、こんな大人数で同じような企画を実行した作品は聞いたことがありません。

仮に設定を思いついたとして、破綻せずに書ききれるかどうか……。

宮脇さんはとんでもなく重大なネタバレをしてましたが、結末を知ってもなお興味を引かれます。

ただ、Kindle版は出ておらず、ペーパーバックも中古品しか購入できない模様。

無念!

David Crystal『誰が英語の用法を気にするか(Who Cares About English Usage?)』



日本の新書に相当するような、一般向けの英語関連本として紹介されていました。

ポッドキャストのGrammar Girlみたいに、対象が外国人ではなく、イギリスやアメリカの英語ネイティブが読んでいる本ってところがいいですよね。

初版が1984年、第二版が2000年とやや古めなのがネックですが、僕はこういう勉強系の本を読むのが大好きです。

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調べてみると、デイヴィッド・クリスタル(David Crystal)さんは、最近も文法やつづり、発音など、英語の用法についての本をたくさん出してました。

僕はとりあえず、一番面白そうだったMaking Senseを「ほしい物リスト」に追加。

このシリーズ、全冊読破したら、めちゃくちゃ英語が得意になりそうです。
『洋書ラビリンスへようこそ』で紹介されていた洋書は、ありふれた「洋書ガイド」とは一線を画す独特なラインナップでした。

宮脇さんみたいに、自力で面白い海外作品を発掘できたらかっこいいですね。

洋書はまだ「乱読」できるほどスラスラは読めないので、もっと英語の勉強を頑張るぞ!


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