おじいさんの頼みごと

ユニクロのセルフレジで会計をしていたら、隣でおじいさんが女性店員と話していた。

「ちょっとあそこのお兄ちゃんにきいてみようか」

まずいと思って目を合わせないようにしたが、無意味だった。おじいさんは腕時計を差し出してきて言った。

「時間を合わせてもらえませんか?うまくできなくて……」

時計は見るからに高価で、文字盤の右側に竜頭が3つ付いていた。

「すみません、わからないです」

壊しそうで怖かったので、指一本触れず断った。実際やり方もよくわからない。

その後、おじいさんは別の男性店員のところに行き、同じ頼みごとをしていた。結局、電池が切れていただけらしく、店員が時計屋の場所を教えて問題は解決したようだった。


実は、おじいさんに話しかけられたとき、僕は反射的にスマホと財布を押さえた。時計に注目させておいて貴重品を盗むスリかもしれないと思ったのだ。他に仲間がいるのではないかと周囲にも警戒した。

しかし、おじいさんはひとりぼっち。去り際には「ごめんね、お兄ちゃん」と迷惑を詫びて、ただの善良な市民だった。一瞬疑ったことを申し訳なく思った。


今回は違ったが、社会の高齢化が進めば、高齢者が「騙す側」に回る事件も増えてくるのではないかと思う。「老老介護」ならぬ「老老詐欺」(騙すのも騙されるのも高齢者)みたいな。高齢者は被害者というイメージが強いから、案外簡単に引っかかってしまいそうである。

たとえば、「75歳以上は契約ができないから、名義を貸してくれないか?」と言って、書類にサインさせる手口なんかはすでに行われているかもしれない。現在はお金のない若い世代が犯罪に加担してしまうケースが多いが、貧しい高齢者が悪者に利用されてもおかしくはない。

なんだか殺伐とした話になってしまったのは、たぶん買い物で消耗したからだ。何を買うか選ぶ判断疲れに加えて、たくさんの値札を見ていると精神が削られる。ユニクロはまだ頑張っているとはいえ、衣料品は値段が高い。特に上着類は5千円以上が当たり前で、財布へのダメージを考えると頭が痛い。

今回は10年ほど前に購入したウルトラライトダウンを新しく買い直した。新しいダウンにはまた長いことお世話になると思う。これからよろしくね、相棒!


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