注意すべきは小さな巨人。IBD(炎症性腸疾患)と食事制限。

IBD(炎症性腸疾患)の治療には食事制限は不要という考え方がある。特に潰瘍性大腸炎に関しては、〇〇が原因だと断言し、それさえ気をつければ食べ物は関係ないとする主張が散見される。小麦だったり、乳製品だったり、添加物だったり。悪者にされる対象は違えど、特定の「何か」に病気の責任を押し付けている点では、どの説も似たようなものである。

潰瘍性大腸炎の診断を受けた当初、僕はこの「〇〇原因説」と同じ考えをしていた。乳製品が悪いのだと思い、アイスやココアは控えるようにしたが、それ以外の食べ物については特に制限しなかった。食事を作ってくれる母も、繊維のきつい食材を避けるくらいしかせず、食卓にのぼるメニューに大きな変化はなかった。パンも揚げ物もパスタも、そこまで気にせず食べていた。

しかし、よくよく考えればわかることだが、炎症でボロボロになった腸に、健康なときと同じ感覚で食事を入れて、無事で済むはずがない。病気を発症した原因が何であれ、一度腸が弱ってしまえば、他の刺激に対しても耐性は低くなる。症状を悪化させないためには、元々の発症原因を取り除くだけでなく、ある程度は食事に制限をかけ、腸を守ってやる必要があるのだ。僕は何度も体調を崩し、ようやくこの当り前の事実を悟った。


無視できない小さな巨人

食事制限について考えるとき、僕はいつも『進撃の巨人』を思い出す。『進撃の巨人』では、人々は巨人から身を守るため、居住地の周りに高さ50mの防御壁を築く。巨人の身長は大きくても15mくらいだから、簡単に壁は壊せない。人々の生活には、しばしの平穏が訪れる。ところが、約100年後、突如身長50m超えの超大型巨人が出現する。大型巨人はあっさりと壁を破壊。その箇所から次々と巨人たちが侵入し、街に壊滅的な被害をもたらす。

ポイントは、超大型巨人はほぼ壁を壊すだけで、実際に被害をもたらしているのは小さめの巨人たちという点だ。壁が正常なら無視できた小さな巨人でも、ひとたび壁が崩れると恐ろしい脅威になる。たとえ大型巨人が消えたとしても、壁を元通り修復するまで、彼らと戦わなくてはならない。

IBD治療でも同様に、いったん腸のバリアが壊れてしまうと、発症原因(大型巨人)を排除しただけでは、問題は解決しない。腸が回復するまでの間は、肉や油脂、香辛料といった、健康なときには気にしなくてよかった食べ物(小さな巨人)にも対処しなくてはならないのだ。

特定の「何か」が病気の原因だと思い込むと、他の要因に対しては注意が甘くなる。食事制限なんて本当はしたくないから、病気と食べ物は関係ないと信じたくなる気持ちも出てくる。しかし、今体調を悪化させているのは、大型巨人ではなく、小さな巨人たちかもしれない。これは危ないな、と思った食べ物は避ける地道な食事制限が、症状改善への近道である。