【洋書】Kazuo Ishiguro著『Klara and the Sun』を読んだ感想。クララに教わる人間らしさ。

カズオ・イシグロ(Kazuo Ishigur)さんの『Klara and the Sun』を読んだ。

彼の作品を読むのは、大学生のとき読んだ『Never Let Me Go』以来。

最初は似たようなテーマの話かと思ったが、展開は大きく異なり、温かな気持ちで本を閉じることができた。


※以下の感想にはネタバレを含みます。



感想・レビュー

人間より人間らしいクララ

『Klara and the Sun』で描かれるのは、科学が発達しているようで、洗練されるには至っていない、中途半端な近未来。

人工知能ロボットを持っているのは高所得者層だけだし、工事車両はモクモクと大気汚染物質を吐き出している。

そんな社会の中で、クララの人間らしさは突出して際立っていた。

太陽に意思があると信じ誓いを立てる様は、まるで宗教。家族の言葉にたじろいだり、タスクに失敗して落ち込んだり、愛を語ったり。ロボットらしからぬ感情の豊かさは、文明に侵され冷淡になっていく人間への皮肉のようにも感じられる。

一見非合理的に映るクララの言動に、人間が失いつつある尊い心の機微を教えられた気がした。


命の本質はどこにある?

この物語が投げかけているの問いの一つが、「肉体や精神を完璧に再現できるなら、人の命は代替可能か?」というもの。

クララは「大切なものはその人を想う周りの人々の中にあって、当事者の中身をいくら調べても見つからない」という趣旨の発言をしていて、なるほどなと思った。

人間にとって命は双方向的なものだから、本人の心と体を忠実に再現できたとしても、家族や友人の愛情が失われては、元と同じ状態とは言えない。


果たしてクララは、もし仮にJosieが死んでいたとしたら、そうした事実を飲み込んだうえで、彼女の続きを演じたのだろうか?

個人的には、母親の方から「やっぱりやめて!」と言い出すのではないかと予想する。

人の心に弱さがある限り、科学は万能になりえないし、万能になる必要なんてないと、僕は思う。


さいごに

クララが太陽と交わした(つもりになっている)約束は絶対叶わないだろうと思ったら、本当に奇跡が起こって驚いた。

なんだか負けた気はするが、クララがあまりにも懸命だったので、無事に報われてほっとした。

日の光に秘められた力を、僕も信じたくなってくる。


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