味わい深い旅の物語。筒井康隆『旅のラゴス』を読んだ感想。

筒井康隆さんの『旅のラゴス』を読んだ。

筒井さんの作品を読むのはこれで3冊目。

最初に読んだ『残像に口紅を』は、実験的な試みはすごいしとても真似できないが、正直なところ面白くはなかった。

2冊目の『時をかける少女』は、タイムスリップの種明かしや裏事情の説明に驚かされ、うまいなあと思った。

今回読んだ『旅のラゴス』は、わかりやすいオチや仕掛けがないのに味わい深く、まさに「旅」を描いた作品だった。


※以下の感想にはネタバレを含みます。作品を未読の方はご注意ください。

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感想・レビュー

主人公のラゴスは人格者で、頭もよい。どこに行っても人々から信頼され、ピンチに陥っても冷静に切り抜ける。旅の途中では何人もの女性から愛される。

普通だと僕はこういう恵まれた主人公が好きになれない。(だからラノベはあまり読まない)

しかし、ラゴスはいくら周囲からもてはやされても旅の目的を見失わず、嫌みがない。

現実でも架空の世界でも、しっかり筋の通った人物は、たとえ成功者であっても憎めないものである。

旅の序盤に出会った少女をいつまでも想い続ける人間らしさもまた魅力的に感じられた。


この作品では、生き物や国、人物など、架空の名前がたくさん登場し、著者のネーミングセンスのよさに感心した。

個人的に好きなのは、主に移動手段として使われている「スカシウマ」。強くはなく、人間には従順で、気性は穏やか。これほどイメージにぴったりくる名前は僕では思いつかない。

また、最初タイトルを見たとき、「ラゴス」は「パトス」や「ロゴス」のようなギリシャ系の哲学用語なのかと思った。が、ストレートに主人公の名前だった。こちらも主人公の知的さを体現している素晴らしいネーミングだと思う。


物語の大枠は「行って帰って来る」話だった。しかし、旅の真のゴールがどうなるのかは最後まではっきりと描かれず、おそらく主人公ですらわかっていない。

いつも何かしらのゴールを目指して歩いてはいるけれど、結局はたどり着くまでの道のりがすべて。だからといって、行く先が定まらなければ、道中も充実感は得られない。

ありきたりかもしれないが、旅も読書も人生も、そういうものなのだと思う。


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