変わってる人を観察する変わってる人。今村夏子『むらさきのスカートの女』を読んだ感想。

今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』を読んだ。

レビューや表紙の雰囲気から、もしかしらホラーなのかとびくびくしていたが、怖い話ではなかった。

ただ、とても不思議な小説だった。


※以下の感想にはネタバレを含みます。作品を未読の方はご注意ください。

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感想・レビュー

この小説は、「むらさきのスカートの女」を観察する語り手(わたし)の視点で描かれる。

読者としては、むらさきのスカートの女だけでなく、むしろ語り手の素性が気になり、どんどんページをめくってしまう。

物語が進むにつれ、むらさきのスカートの女には家族がいて今も親交があることがわかり、意外と普通の人物なのではないかという気がしてくる。

どこかで明確に、というわけではないが、自分の中でむらさきのスカートの女に対する見方が変化していく過程が面白かった。


逆に、語り手はどうやら職場で空気のような扱いで、住む場所も追われそうになっている。

一体どんな人生を歩んできたのか、文章には書かれていない本音があるのか、知りたくて知りたくて仕方がない。

しかし、体温を感じない、どこか冷めたような文体が、彼女の内面をきっちりとガードしている。

何か大事なものが欠落している語り手の人格はどうやって形成されたのだろう。

自らの異常さを認識したうえで意図的にユーモアに変換しているような語りに、透き通った闇の気配を感じた。


最後、むらさきのスカートの女は姿を消してしまうが、起こした事件の大きさを考えれば、特に不自然なことではない。

残るのは語り手の日常で、きっとこれからも社会からちょっと浮いた存在として生きていくのだと思う。

そして、世間の「普通」からすれば、変わっているのは僕も同じだ。

世の中の人はみんな、周りとどこかしらずれた部分があって、誰かにとっての「○○の○○のおんな(またはおとこ)」なのかもしれない。


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