柴田ケイコ『パンどろぼう』を読んだ感想。微笑みがとまらない。

柴田ケイコさんの『パンどろぼう』を読んだ。

これは人気になるのもわかるなと思った。


※以下の感想にはネタバレを含みます。作品を未読の方はご注意ください。

この記事を書いている時点では、『パンどろぼう』はAmazonのKindle Unlimitedで読み放題の対象になっています。

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感想・レビュー

まず『パンどろぼう』というタイトルを聞いて、パンが泥棒をするのか、泥棒がパンを盗むのか、2通りのパターンを思い浮かべる。表紙を見ると、答えは両方。この時点でもう傑作である。パンがパンを盗んでいるのだから、「パンどろぼう」としか言いようがない。

本を読み進めていくと、パンどろぼうの正体がネズミだと明らかになる。きっと子供たちはここで盛り上がるのだろうが、僕も素直に「そうなの!?」と驚いた。実は、先日近所の書店で『パンどろぼう』の企画展示が行われており、遠目だと期間限定のパン屋がオープンしたんじゃないかと勘違いするくらいパンのぬいぐるみだらけだったので、まさか主役の中身がネズミだとは思わなかった。

たぶん「ねずみ小僧」と「アルセーヌ・ルパン」から着想を得たのだろうけれど、そこから「ネズミにパンの着ぐるみを着せて泥棒にしよう」という発想にいたるのは天才だ。

もう一つ大きな見どころは、盗んだパンがまずいという場面。生まれたときからパン職人だったみたいな風貌の店主の作るパンがおいしくない。そのギャップがたまらない。しかも、あんなにニコニコ笑顔のおじさんが、「せかいいちおいしいもりのパンや」という超強気な店名を付けているのだから、もう笑うしかないだろう。

よくよく読み返してみると、パンどろぼうが盗みに入ったとき、すでにたくさんの種類のパンが並んでいるにもかかわらず、店の中にも外にもお客さんが一人もいない。絵本を読む子どもたちは、おじさんの笑顔の裏に隠されたシビアな現実に気がつくだろうか。

パンどろぼうがおいしいパンを作って店が繁盛する流れは、いかにも絵本らしい展開で微笑ましい。魅力的なキャラクターや意外性ももちろん大事だが、やはり大枠が王道的なハッピーエンドのストーリーになっていると安心して読める。ほっこりする絵と話運びに、とても温かい気持ちになった。


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