有吉佐和子さんの『青い壺』を読みました。
NHKの『100分de名著』やテレ東の『あの本、読みました?』で紹介されていた作品です。
完全に流行りに乗っかった格好ですが、これは当たりでした。
あらすじ・概要
舞台は戦後数十年経った昭和の日本。美しく仕上がった「青い壺」が転々としていく中で、さまざまの人々の日々の営みと心の動きが描かれる。
全13話からなる連作短編集のような長編。(文庫解説には「連作短編集」、Amazonの商品ページには「長篇」と書いてあった。たぶんどっちでもいい)
感想・レビュー
ヒットの秘密は敷居の低さ?
読み始めてすぐ感じたのは、文章の読みやすさ。誤解を恐れずにいえば、とても女性的で柔らかい文体だった。さすがに書かれたのが1970年代なので、ちらほら耳慣れない単語や言い回しは出てくるものの、違和感なくスッと頭に入ってくる。これは流行るのもわかるなと思った。また、連作短編という取っつきやすい形式もよい。1つの話が20~30ページくらいしかないから、心理的な負担が少ない。その一方、各話が完全に独立せずゆるやかにつながっていることで、先が気になってつい次の話を読み始めてしまう。ミステリのようにはっきり謎を提示されなくても、毎回、どのように壺が出てくるのか、どうやって持ち主の手を離れるのかという引きがあるのも、ページをめくる駆動力になっている。
読みやすく取っつきやすい、古い作品でも人にすすめやすい敷居の低さがヒットの理由ではないかと思う。
時代を経ても変わらない価値観
読んでいて面白かったのは、登場人物の価値観が令和になった今の時代の人々とそこまで変わらないこと。もちろん文化や慣習は異なるが、その根底に息づく考え方は驚くほど共通する部分が多かった。特に、作中の老人たちが若者世代の「新しい価値観」に呈する苦言は、現代の高齢者が言っていることとほとんど一緒。作品の舞台である昭和時代に若者であった人々が今の高齢者であるはずなのに、年を取るとかつての老人たちと同じようなことを言っているのは興味深い。価値観により大きく影響するは、時代より年代(年齢)なのかもしれない。
あくまでフィクションであることが前提とはいえ、今と昔で違うところ、同じところを見つけていくのは楽しかった。この手の日常系の話でこんなに面白く感じるのは、時代設定が「戦後」ほど遠すぎず、かといって情景がすぐ浮かぶほど近すぎない、絶妙な距離感だからだろうか。歴史資料や専門書よりも、一般小説の方が「刺さる記録」としては有用ではないかと思った。
想像した「青い壺」を割られる
「青い壺」というタイトルを聞いて、僕がイメージしたのは、遊戯王の「強欲な壺」のように真ん中が丸く膨らんだふくよかなタイプの壺だった。あるいは、「ハクション大魔王」に出てくる壺。いずれにしても、不思議な力を秘めていそうな形状の壺を想像した。しかし、本作で主役となる壺は「経管」と呼ばれるもの。シンプルな円筒形の壺だった。「そんなのただの花瓶じゃん!」と思ったが、これも立派な壺の一種らしい。
作中では一点物の壺が3つ作られるが、この「経管」だけが生き残り、僕の想像したタイプの2つはあっけなく割られてしまう。作者から「あなたこういう壺を思い浮かべましたよね?残念でした。ハズレでーす!割りまーす!」と言われた気がした。
さいごに
『青い壺』で描かれていたのは、ちょうど僕にとってエアポケットになっている時代で、読んでいて不思議な感覚になりました。古いような、新しいような。この絶妙な空気感は、当時を生きた作家さんでないと出せないものだと思います。
すでに新聞やテレビで紹介されまくっていますが、僕もおすすめしておきます。
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