白川尚史さんの『ファラオの密室』を読みました。
頭の中に、古代エジプトの風が吹く……。
感想・レビュー
舞台が古代エジプトだし登場人物の名前がカタカナばかりで読みにくいかなと心配したが、杞憂だった。主人公たちの価値観や倫理観は今の日本人と大して変わらず、セリフはそのまま現代語。設定が特殊なだけで、やっていることは一般的なミステリーと同じだった。ミステリーのトリックに関しては、正直そこまでの驚きはなかった。しかしながら、古代エジプトならではの仕掛けは物語に違和感なくはまっていて、よくこんなしっくりくる謎を探してきたなと感心した。
「このミステリーがすごい」大賞作品ではあるが、この小説のよさはミステリー部分よりも、古代エジプト独自の習慣や信仰を描きながら、それに対する近寄りがたさを全く感じさせないところにあると思う。冥界や蘇りはもしかしたら本当にあってもおかしくないなと思わされるし、個人的に苦手意識があったミイラに対する見方もちょっと変わった。
今まで「ラー」とか「オシリス」とか聞いても遊戯王の神のカードくらいしか思い浮かばなかったけれど、この作品を読んで頭の中の古代エジプトの景色に色がついた気がする。一つの文明の印象をたった一冊で塗り替えてしまう小説の力は偉大だなと改めて思った。
さいごに
「このミステリーがすごい」大賞の受賞者は医者だったり弁護士だったりIT長者だったり、小説家にならなくてもすでに社会的に成功している人が多く、なんだか嫉妬してしまいます。ただ最近は、そういう頭がよくてお金を持っている人だからこそ描ける小説があるし、わざわざ出版業界に参入してくれていることをありがたく思うようになりました。
人生のゆとりを寄付してもらっているつもりで、本を読みます。
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