伊与原新さんの『ブルーネス』を読みました。
やっぱり研究って、大変だなあ……。
感想・レビュー
序盤は津波監視システムの技術的な話にわくわくしてどんどんページが進んだが、途中からつらくなってきた。科学研究にはお金と時間がかかるし、人間関係や事務手続きなど直接研究とは関係ない部分で足を取られる。僕も一応大学が理系の学部だったのでそうした苦労は理解しているのだけれど、だからこそ、その面倒臭さをしっかり描写されるとしんどい。学生時代に感じていたプレッシャーを思い出して、胸が痛くなった。最後はめでたしめでたしの展開だが、ちょっと唐突で都合がよすぎる気もした。きっとハッピーエンドになるだろうと予想していたし、主人公たちの努力は報われてほしかったけど、さすがにいろいろとタイミングがぴったりすぎてびっくりした。テーマが重いせいか変なギャップが生まれていて、震災を扱うのは難しいなと思った。
文庫の解説によると、「ウミツバメ」に似た装置自体はすでに実在するらしい。ただ、作中で描かれていたように、もし現実世界で海面や海底に装置を設置して津波監視システムを構築しようとした場合、ネックになるのはメンテナンスだと思う。果たして東日本大震災から10年以上たった今、決して小さくはないコストと人員を割いてまで津波の対策をすべきと考える人はどれくらいいるのだろうか。地震ならまだしも、津波……。主人公たちの熱い想いに対してどうしても温度差を感じてしまう自分は危機意識がなさすぎるなと自戒する。
さいごに
伊与原さんの小説は科学の知識と人間ドラマがうまく融合しているのが特徴ですが、今回は人間ドラマの比重が重く、理系要素が好きな僕はそこまでハマれなかった感じがします。個人的には長編より『月まで三キロ』とか『八月の銀の雪』みたいな短編集の方ががしっくりきますね。
直木賞を受賞した『藍を継ぐ海』は短編集らしいので、文庫化するのが楽しみです。(宝くじが当たったら単行本で!)