【レビュー】又吉直樹『火花』を読んだ感想

【レビュー】又吉直樹『火花』を読んだ感想


又吉直樹さんの『火花』を読みました。

又吉さん、すごい……。




感想・レビュー

芥川賞を受賞したときは「芸人初」という新規性も加味して選ばれたのではないかと心のどこかで思っていたが、申し訳なくなるくらいちゃんとした小説だった。芸人という枠を超えて、人生における充実とは何かを考えさせられる。又吉さんは本物の小説家なんだなと、今さらながら実感した。

世間に媚びずに自分のスタイルを貫く(あるいは貫かざるを得ない)神谷のような人間に惹かれる主人公の気持ちは理解できる。しかし、もはや笑えないレベルまで周囲との感覚のずれが大きくなったとき、冷めずに心酔し続けられる理由を言葉で説明するのは難しい。その点において、作中では主人公が神谷を見限ってもおかしくない場面が多々あるが、その都度、なぜ憧れを手放せないのか、なぜ才能を信じられるのかが雰囲気で流さず具体的に描写されており、妙に納得させられてしまった。僕は特定の個人に愛着を持つことがあまりないけれど、この作品を読んで誰かを師と仰ぐ人の心の底にあるものが少し見えてきたと思う。

神谷と主人公の間で交わされる予備動作のないジョークは、コントや漫才などの「商品」としては売れないし、傍から見ると笑えないけど、本人たちは真剣に面白さを追い求めているのが伝わってくる。こういう絶妙なラインのワードをいくつも小説に入れ込めるのは、やっぱり著者がそこそこキャリアのある芸人だからかなと思ってしまう。最後の神谷の暴挙にいたるまで、いわゆる「クリシェ」を徹底的に破壊しようとしている感じがして心地よかった。


さいごに

有名人が書いた小説は著者の顔がちらついて作品に集中できないことが多いですが、今回は不思議と又吉さんの顔は浮かびませんでした。

又吉さんがあまり芸人っぽい芸人じゃないからかな?

アメリカに行った綾部さんが今どうなっているのか知りませんが、ピースとして漫才をしている姿を見たらまた印象が変わるかもしれません。


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