Ashlee Vanceさんの『Elon Musk: Tesla, SpaceX, and the Quest for a Fantastic Future』を読みました。
テスラやスペースXなどの会社で有名なイーロン・マスクの伝記です。
著者は書くのにだいぶ苦労したようですが、マスク本人がOKを出したのもうなずける大作に仕上がっていました。
知れば知るほど、イーロン・マスクは異常です。
順風満帆とはいかない
この本では、イーロン・マスクの生い立ちとともに、彼がこれまでに興した会社の事業内容が詳しく書かれていました。
Zip2、PayPal、Tesla、SpaceX、SolarCityと、どれも名前くらいしか把握していなかったので、具体的に何をしているのかがわかって面白かったです。
僕が意外だったのは、テスラやスペースXが、何度も倒産しかけていること。
Zip2やPayPalのようなIT分野と違って、工業の世界で一から新しい事業を始めるのは大変なんだなと実感しました。
スペースXは最初のロケット打ち上げに成功するまで、テスラは1台目の車を売り出せるまでに何年もかかっていて、その間資金調達を続けられたのは奇跡。
工場などの設備投資や研究開発にかかる費用の莫大さを考えると、どちらの会社もよく生き残ったなと思います。
ただ、民間の宇宙開発企業も電気自動車も、社会に強く必要とされているので、毎回ギリギリのところで救いの手が差し伸べられるのは必然だったのかも。
NASAとの大口契約によって両社の首の皮がつながった場面を読んで、アメリカは国として、貴重な企業を潰したくなかったんだろうという気がしました。
超エリートブラック企業
テスラやスペースXは、やっていることは素晴らしいですが、要求される働き方のストイックさには引きました。
マスクによると、1日8時間の労働者を2人雇うよりも、1人に16時間働かせた方が、
・意思疎通の手間が省ける
・技術や知識の蓄積が倍になる
とのこと。
いやー、発想が超絶ブラックですね(笑)
集めてきた人材をふるいにかけて、有能でかつハードワークに耐えうる猛者だけを残す。
そんな無茶苦茶なやり方でも優秀な技術者が途切れずやって来るのは、マスク自身が仕事に忠実だからなのでしょう。
単にお金と指示を出すだけの起業家と違って、イーロン・マスクは車やロケットの工学的な仕組みまで理解している点が別格。
たとえ厳しい道のりでも、「この人にならついていきたい」と思う気持ちはなんとなくわかります。
目指すは火星
イーロン・マスクの掲げる最終的な目標は、火星を人類の新たな拠点にすること。
伊坂幸太郎さんの小説に『火星に住むつもりかい?』という作品がありますが、そのタイトルを地で行っているわけです。
文章中にはたびたび「interplanetary」という単語が使われていて、とてもスケールの大きな話でした。
正直「まだ月にもまともに行けてないのに……」と思わなくもないですが、マスクは現実的に可能だと考えている様子。
ロケット打ち上げのコストを極限まで下げようとしているのも、火星でのインフラ構築のために大量の物資や人員を運ぶ必要があるからだそうです。
課題達成に必要な技術や期間もちゃんと想定されていて、これはもしかすると本当に行けるのか……?
しかし、もしマスクが死んでしまったら、彼に匹敵するほどの熱量とカリスマ性を持った後継者が現れるかは難しいところ。
マスクの仕事っぷりには相当に生き急いでいる感がありますが、やはり彼自身の手でどれだけ計画を進められるかが勝負になると思います。
さいごに
耳が聞こえないのかと勘違いされるほどの集中力と、読んだ本の内容をすべて頭に入れてしまう驚異的な学習能力。
そんな才能を持った人物が人類の未来のために尽くしてくれているのは、非常にありがたいことですね。
頑張れマスク!負けるなマスク!