味の記憶と食事制限。

職場で頻繁にお菓子をもらう。

土日に出勤すると、ベテランの先輩が飴やチロルチョコをくれる。

年末年始には、派遣先の企業からスタッフへ、プリッツやじゃがりこ、たべっ子どうぶつビスケットなど、懐かしのお菓子が配られた。

僕はクローン病なので、もらったお菓子はすべて親やきょうだいに渡す。

自分で口にすることはないが、どのお菓子も昔は食べたことがあり、味は鮮明に覚えている。

食べ物の味の記憶は、しぶとい。


この頑固な味の記憶は、食事制限をするとき、厄介な敵になる。

ダメだとわかっていても我慢できなくなるのは、決まって以前食べ慣れていたもので、おいしさが忘れられず、つい手が出てしまう。

ちょっとだけのはずの「例外」が、繰り返しの「習慣」になり、体調を崩す。

僕はそうやって何度も失敗を重ねてきた。


そこで、あるときから、発想を変えた。

たとえば、僕は一度読んだ小説は、基本的には読み返さない。

再び本を開くとすれば、それは内容を忘れた場合で、落ちのわかっているストーリーをあえてなぞり直すことはまれだ。

食べ物も同じように、すでに知っている味は、体調を悪化させる危険を冒してまで、わざわざ「復習」する必要はない。

頭で味を再現できるほど好きな食べ物は、完全に学習済み。

無理に遠ざけるのではなくて、逆に「もう食べなくても大丈夫だ」と前向きに考えると、ちょっと気持ちが楽になる。


ちなみに、僕はこれまで、未知なる味への探求心から衝動的に食事制限を破ってしまった経験はない。

新しいものを追い求めるのは、知識や技術だけにとどめておこう。