お疲れさま、と言葉が漏れる。柏耕一『交通誘導員ヨレヨレ日記』を読んだ感想。

柏耕一さんの『交通誘導員ヨレヨレ日記』を読んだ。

僕は道路工事の作業員と交通誘導員は同じ会社の人間だと勘違いしていた。彼らの関係性を知り、業務上発生するであろうコミュニケーションの面倒くささに恐れ入った。

同僚、作業員、近隣住民と、三方それぞれとやり取りする心労は察するに余りある。通勤時、交通誘導員の姿はほぼ毎日のように目にするが、柏さんが体験した現場でのエピソードを読んで、彼らに対する見方がガラッと変わった。

これから交通誘導員の方々とすれ違うときは、とりあえず「お疲れさま」と言っておきたい。(恥ずかしいので心の中で)


また、僕が耐えられそうにないのは、長時間トイレの我慢を強いられる点。

以前『トラックドライバーにも言わせて』を読んだときにも思ったが、トイレについての規定は法律としてきちんと明文化すべきではないだろうか。世の中には自由にトイレに行けない職業があまりにも多く、人間が動物であるという事実が無視されているような気がする。

労働基準法に残業や休憩時間に関する決まりがあるのなら、「○○時間に1回はトイレに行くことを許す」というような条項もぜひ追加してほしい。


柏さんは本業が出版・ライター業というだけあって、文章が非常にうまかった。イライラさせる人物がたくさん出てくるにもかかわらず、後味の悪さを残さないところに、文筆家としての腕を感じた。

柏さんには、『武器としての言葉の力』という、文豪の名言を紹介する著作があるが、ご自身の言葉の方がよほど力があるのではないかと思う。
ちなみに、この本には現在マンガ版も出されている。

Kindle Unlimitedの対象になっていたので軽く流し読みしてみたが、個人的には元の「ヨレヨレ日記」の方が圧倒的に好きだ。

小説のコミカライズでもありがちなことだけれど、マンガ版では情報が大幅に削られており、文章からにじみ出る柏さんのユーモアが薄まっているように感じた。


ただ、マンガ版には原作の「ヨレヨレ日記」が刊行された「その後」のエピソードが描かれており、いい感じに話がまとめられていた。

70歳を超えてもなお、出版で一花咲かせようという柏さんの野望には元気をもらえる。

そして、本を読んだ奥さんのリアクション、素敵です。