食べないアイスをじっと見る。変わらないアイスたちと、変わった僕。

スーパーやドラッグストアに行くと、アイス売り場の前で足が止まる。買うわけでもないのに、じっとアイスを眺める。クローン病だからアイスは食べられない。それでも、見る。

最後にアイスを食べたのは10年くらい前だが、商品のラインナップは驚くほど変わらない。いくら新作が出てきても、レジェンドアイスたちはびくともせず、冷凍ケースの中に堂々と並んでいる。

ピノ、ハーゲンダッツ、雪見だいふく、爽、チョコモナカジャンボ、パピコ、あいすまんじゅう、ブラックモンブラン(九州だけ?)、ガリガリ君、ジャイアントコーン。高校生の僕が今の時代のアイス売り場にタイムスリップしてきたとしても、10年後の未来だとは気づけないだろう。

アイス売り場の前では時空が歪む。昔からあるなじみのアイスはそれくらいずっと店頭に並び続けている。一瞬僕も、病気も不健康もなく、あの頃の自分のまま、気兼ねなく好きなアイスを買って食べられそうな錯覚を起こす。でも、現実は違う。僕はクローン病患者だし、弱った消化器官にアイスを入れれば無傷では済まされない。

10年。過ぎ去った時間の重みを感じながら、アイス売り場を後にする。

家の冷凍庫の中にも大抵はアイスが入っている。家族はクローン病の僕にお構いなしにアイスを食べる。僕は「食べるか、食べないか」の迷いが生じる前に、心の焦点をアイスからずらす。迷ったらその時点で負け。家族にもアイスは食べないと明言し、頼りない自制心を他人の目でカバーしている。常に家族の視線がある実家暮らしという環境は、自分に何かしらのルールを守らせるには都合が良い。アイスの誘惑を生み出すのも家族だが、そこから自分をセーブするのもまた家族なのだ。

しかし、僕は中心静脈栄養点滴をつけて入院しているとき、心の中で誓いを立てている。

「退院したら絶対ハーゲンダッツの抹茶(グリーンティー)を食ってやる!」

お腹を壊す覚悟で、1回だけ。

自分との約束を実行に移す日を決めかねたまま、今年も夏が巡ってくる。


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