早見和真さんの『店長がバカすぎて』を読みました。
久しぶりに「funny」という意味での「面白い」小説に出会えて、感無量です。
感想・レビュー
店長のつかみどころのなさが素晴らしい。「バカ」ではあっても決して「悪い人」ではなく、ピントはずれているが書店やスタッフのために行動している。そこには誰かを貶めようという意図が全くないから、どんなに主人公が店長にイラついていても嫌な気分にならず笑っていられる。ある意味何をしても許される最強のキャラだと思う。本作はコメディ色が強いこともあって、普通のお仕事小説に比べより声高にはっきりと書店員の苦境が叫ばれていた。地味に驚いたのは、契約社員として働く主人公の待遇の悪さ。もちろんフィクションだし2019年の作品とはいえ、東京の書店に勤める主人公の時給が千円を切っているのには衝撃を受けた。
激務で薄給なうえ、やりがいさえも危うい。それでもなお悲痛さよりおかしみが勝っているのは、やはり店長のおかげだろう。途中からはある種の信頼が生まれ、この店長なら、この著者なら、きっと最後は面白く終わらせてくれるはずだと確信をもって読んでいた。そういう期待を抱かせる力がこの小説にはある。現実社会でも、いつか必ず明るい未来がやって来ると心から信じられたらいいのにな、と思った。
さいごに
少し前に同じ著者の『笑うマトリョーシカ』を読んだばかりだったので、あまりのギャップに驚きました。でも、よく考えると正体のわからない店長は「マトリョーシカ」そのもの。
果たしてマトリョーシカの中身は明かされるのか、次巻を読むのが楽しみです。
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