【2021年9月】今月読んだ本の感想まとめ。ゆっくりじっくり自分のペースで読む本は最高!

【2021年9月】今月読んだ本の感想まとめ。ゆっくりじっくり自分のペースで読む本は最高!


まだまだ暑い日が続きますが、朝晩は段々と涼しくなり、外から聞こえてくる音色は、風鈴から鈴虫へ。

同じことの繰り返しのような日々でも、季節は確実に前に進んでいるようです。

本格的な「読書の秋」の訪れを待ちつつ、今月も本の感想を書いていきます。


※補足
タイトルに「Kindle Unlimited」とつけているのは、AmazonのKindle Unlimitedを利用して読んだ本です。

Kindle Unlimited公式サイトはこちら


読書記録(2021年9月)

対岸の彼女

家庭持ちで子どもや夫との関係に悩む小夜子と、独り身でサバサバした性格の葵。立場の違う2人の女性を主人公にした物語です。

小夜子が葵の会社で働き始める現代と葵の過去編が交互に進行していく構成で、地味なテーマにしては、非常に「読ませる」作品でした。

角田さんは心理描写の解像度が高く、これまでに恐ろしいほど大量の文章を書いてきたのが伝わってきます。

豊富な語彙をお持ちなのはもちろん、言葉の繰り返しを無理に避けず、割と多くの箇所で同じ単語を連射してぶつけてくる度胸に、作家としての凄みを感じました。

うーん、力強い……。


ストーリーに関しては、前提となる社会的な価値観に時代を感じる部分はあるものの、人間関係の面倒臭さには共感しました。

僕も学生時代は小夜子と同じく、自分からうまく友達の輪に入っていけないタイプ。体育でペアを組むときや遠足の自由時間など、不意に訪れる「試練の瞬間」の疎外感を思い出すと胸が苦しくなります。

あの、一人でいることが許されない絶対的な空気って、一体何だったんでしょうね。

大人になった今では友達0人でも堂々としていられますが(それはそれで寂しいけど)、子どものころは周囲とスムーズに関係を築けないことが重大な欠陥であるように感じていました。


小説の中で描かれているみたいに、社会人でも気持ちのずれから職場が崩壊してしまうような事態はあり得ますが、そんなときでも、心の深いところにある核を傷つけないで守るのが大事。

過去にとらわれず前に進む主人公たちの姿に眩しさを覚えつつ、僕はできるだけ人と関わらず、心穏やかに暮らしたいなと思いました。

とりあえず今のところは、結婚・子育てとは縁のない人生を送る予定です。

浜村渚の計算ノート 9さつめ 恋人たちの必勝法

シリーズ開始当初から読んでいる「浜村渚の計算ノート」シリーズも、ついに11冊目(タイトルは「9さつめ」だけど)になりました。

1巻目が出版されたのは2011年。なんだか歴史を感じますね。巻を重ねるごとに作風がちょっとずつ変化していて、話の雰囲気も渚の性格もだいぶ明るくなった気がします。


今回取り上げられていた数学の題材はなじみのあるものばかりで、比較的軽めな内容。不等式のところは、数学と事件の絡め方が強引過ぎて吹きました。それはさすがに……(笑)

でもまあ、そのゆるさが浜村渚シリーズの良さでもあります。

唯一初耳だった「レピュニット数」の話は、終盤の渚のセリフの謎が解けず、モヤっとしたまま。作者の意図を理解するために、絶賛勉強中です。




「恋人たちの赤と黒」で出てきた確率の問題は、僕も武藤さんと同じく引っかかりショック。よくできた問題だなあ、と思っていたら、参考文献に『世界の名作 数理パズル100』が挙げられていました。

自分で一から問題を作らなくても、こういう資料の使い方もありなんですね。

人生の短さについて 他2篇(Kindle Unlimited)

約2000年前に書かれた、古代ローマの哲学者セネカによる人生論。

収録されている3篇はいずれも特定の人物に宛てた「手紙」なのですが、それにしては文章が立派過ぎて、次々と繰り出される巧みな比喩には唸りました。

さすがに「真理の追究」をすすめているだけのことはありますね。

多忙に対する批判は、現代にも通じる、というより現代人にこそ当てはまる内容で、参考にすべきアドバイスがたくさん示されています。


「生きて」いるのではなく、ただ長く「存在」しているだけではないか?との問いかけは、耳の痛い指摘。

嵐に翻弄される舟のたとえは、今までの僕の人生そのもので、このままフラフラと生きていていいのかと深く反省させられました。

セネカの推奨する「学問」をそのままの形で実践するのはハードルが高いですが、何か自分の中で指針を定めて、その道を究めるような生き方をしたいです。



サイレント・ブレス(Kindle Unlimited)

在宅患者を診て回る訪問医療スタッフとして働くことになった女性医師を主人公にした作品です。

4つの短編は全体的に地味な印象でしたが、死を過度に盛り上げない落ち着いた描写はリアル。主人公の不器用で愚直な悩み方からは、著者の医療従事者としての真摯な姿勢がうかがえました。

死は誰にでも必ず訪れるもので、特別なイベントではない。でも、そう簡単には割り切れないのが、人間の素直な感情ではないかと思います。

僕の父はすでに還暦を超えていて、いつ「その時」が来てもおかしくない年齢ですが、お墓や延命治療についてはまだ家族できちんと話し合えていません。

万が一の出来事が起こる前に、と頭ではわかっていても、いざ切り出すのはなかなか難しいですね……。

母がひっそりと『配偶者が亡くなったときにやるべきこと』という本を買ってきたので、とりあえず読んで心構えだけしています。


小説の中でうるっときたのが、筋ジストロフィー患者の天野保くんの話です。

進行性で治る見込みのない難病なのに、まるで悲愴感のない天性の明るさ。心の底から生を謳歌しようとする前向きな言葉には、周囲の人々への気配りが自然と含まれていました。

同じ状況になったら、僕はそんなに強くいられるだろうか?

身体の自由がきかなくなったときにこそ、人間としての真価が試されると思います。



世界は文学でできている 対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義(Kindle Unlimited)

ロシア文学を専門とする沼野充義さんが「世界文学」をテーマにして著名な文学者や作家と対談した講演を本にまとめたものです。

口頭でのしゃべりにしては、ものすごい内容の密度。実際に会場で聴いていた人たちは、ちゃんと一度で理解できたのかな?


対談の中で特に興味深かったのは、平野啓一郎さんの文体についての話。

芥川賞を受賞した『日蝕』では、わざと古めかしい文体を選択したと述べていて、意図的にそんなことができるのかと驚きました。

せっかく美しい言葉があるのだから使わないともったいない、との主張はごもっとも。確かに、読者が知らなければ伝わらないというジレンマはあれど、厳密で洗練された表現のためには一つでも多くの言葉を用意しておくに越したことはないでしょう。

ブログを書くときはわかりやすさ重視で難しい単語は避けがちですが、使用する語彙を制限し過ぎて、本来自分の中にある言葉の豊かさまで失わないように注意したいです。


この本は、本編の対談に読み応えがあるのはもちろんのこと、沼田さんの「おわりに」にはそれをはるかに超える熱量が込められていました。

大震災やコロナなど、たとえフィクションであっても、時代の影響をもろに受けるのは文学の宿命ですね。




ゲストの1人の亀山郁夫さんは、光文社古典新訳文庫の訳者として名前だけはよく目にしていたので、どんな人なのか知ることができてうれしかったです。

対談で何度も取り上げられていたドストエフスキーの作品には、いつか腰を据えてじっくり挑戦するつもり。浅い読みしかできないかもしれませんが、僕なりの解釈で名作を味わえればと思います。

交通誘導員ヨレヨレ日記(Kindle Unlimited)

交通誘導員の仕事の実情や苦労を「日記」形式で語った本です。

柏さんは本業が出版・ライター業で、文章が非常に上手。にじみ出る悲哀とユーモアは、きっと豊富な人生経験のなせる業なのでしょう。70歳を超えてもこれから一花咲かせようという野心には元気をもらいました。

僕も病気持ちだからってへこんでないで、前を向かないと!


交通誘導員は、暑い日も寒い日も路上に立っていて身体的にきついイメージでしたが、柏さんのエピソードを読むと、同僚や作業員とのやり取りの方がはるかに大変そう。

仕事の性質上、連係プレーは欠かせないので、コミュニケーション能力がないとやっていけない職業ですね。

そういった意味では、世慣れた高齢者の方が、人との衝突を回避するのがうまくて、仕事が長続きするのかもしれません。

僕の場合、気性の荒い人に当たって怒鳴られでもしたら、一発で心が折れると思います。




また、この本には漫画版も出されていますが、どちらか一方を選ぶなら、圧倒的に原作(文章の方)をおすすめします。

漫画版は絵があってわかりやすいとはいえ、どうしても内容が削られていて、原作に比べるとちょっと物足りません。

ただ、漫画版には原作がベストセラーになった「その後」のエピソードが収録されており、「ヨレヨレ日記」に対する奥さんの感想は素敵でした。

テレビのインタビューを受ける柏さんの画像も(ちっちゃいけど)載っていて、この「日記」を書いたのがどんな素顔の人物なのかわかります。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち(Kindle Unlimited)

「東ロボくん」プロジェクトや読解力調査を主導した著者が、AIの限界と子どもたちの現状について論じた一冊です。

東ロボくんに入試問題を解かせるアプローチの仕方はAIの特徴をわかりやすく示していて、人間とコンピュータとの考え方の違いをよく理解することができました。

「理解」を完全に放棄しているのに、模試でそこそこの成績を残している東ロボくんには感心。たとえシンギュラリティが訪れなくても、AIは確実に人間の生活を侵食していくのでしょう。




後半の読解力テストの結果については「やっぱりね」というのが僕の感想。中学でも高校でも大学でも、明らかにテストや教科書の文章を読めていない人が一定数は存在していました。

僕が読解力を向上させるのに有効だと思うのは、速読ではなく真剣に内容に向き合うような読書の時間を増やすことと、日ごろから文章を書く習慣をつけること。

たとえば、本を読んでブログに感想を書くのはおすすめですよ。(ただのポジショントークになってしまった……)

図解入門よくわかる最新デジタル放送技術の基本と仕組み

テレビのデジタル放送技術について、信号の送受信方法や周辺機器の規格など、関連知識を幅開く解説した本です。

カバー範囲は広い一方で、それぞれの項目は浅く、ちょっと物足りず。個人的には、以前読んだブルーバックスの『テレビの仕組み 白黒テレビから地上デジタル放送まで』の方が役に立ちました。

まあ、どちらも出版されたのは2011年で、かなり昔の本なんですが……。

テレビのテクニカルな面について書かれた書籍はどれも古いものばかりなので、誰か最近の技術をまとめた解説本を出してほしいです。

ネット関連書籍に比べて圧倒的に冊数が少ないところを見ると、やっぱりテレビは落ち目なのかなと思います。


さいごに

最近は読書は「趣味」だと割り切って、役立たせることを放棄し、疑問があれば立ち止まって納得いくまで考えながら、ゆっくり文章を追っています。

読む速さや冊数より、読んでいる最中の時間をいかに楽しめるかが大切ですね。

誰に強制されることもなく、自分のペースで読み進める本は最高です。


※追記(2021/10/30)
10月分の感想も書きました。
 ↓
【2021年10月】今月読んだ本の感想まとめ。涼しい秋は毎日が読書日和。


関連記事:【比較】AmazonのAudible(オーディブル)とKindle Unlimitedはどっちがいい?それぞれのメリット・デメリットまとめ。

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